食道がんは、食道の粘膜から発生する悪性腫瘍です。日本では喫煙や飲酒、熱い飲食物の摂取習慣が主なリスク因子となっています。男性に多く、特に長年の喫煙・飲酒歴のある人に発症しやすい疾患です。
食道は血管やリンパが豊富なため、進行すると周囲臓器への浸潤やリンパ節転移が起こります。初期には自覚症状が乏しく、「食べ物がつかえる」「飲み込みにくい」程度の違和感から始まり、進行すると体重減少や胸痛、声のかすれなどがみられます。
診断には内視鏡検査や造影検査、CT・PETによる進行度評価が行われます。
食道がんの進行度はT(原発巣の深達度)、N(リンパ節転移)、M(遠隔転移)の組み合わせで評価され、以下の表のようにステージ0~IVに分類されます(TNM分類)。
| 深達度 | N0 リンパ節 転移なし |
N1 1~2個の リンパ節転移 |
N2~3,M1a 3~6個の リンパ節転移 |
M1b 遠隔転移 |
|---|---|---|---|---|
| T0,T1a 結膜にとどまる |
0 | Ⅱ | ⅢA | ⅣB |
| T1b 粘膜下層にとどまる |
Ⅰ | Ⅱ | ⅢA | ⅣB |
| T2 固有筋層にとどまる |
Ⅱ | ⅢA | ⅢA | ⅣB |
| T3r 外膜まで広がるが 切除可能 |
Ⅱ | ⅢA | ⅢA | ⅣB |
| T3br 外膜まで広がり 切除可能境界 |
ⅢB | ⅢB | ⅢB | ⅣB |
| T4 食道周囲臓器に広がり 切除不可能 |
ⅣA | ⅣA | ⅣA | ⅣB |
T(深達度)
がんが食道の壁にどこまで染み込んでいるかを示しています。
N(リンパ節転移)
がんが周囲のリンパ節ににじむように広がったかを示しています。
M(遠隔転移)
がんが肺や肝臓など、別の臓器に飛び火したかを意味します。
食道がんの治療法は、一般的に進行度によって以下のように整理されます。
| 進行度 | 治療 |
|---|---|
| ステージ0 (粘膜内) |
内視鏡切除(EMR/ESD) |
| ステージ Ⅰ~Ⅱ |
胸腔鏡下食道切除術 + リンパ節郭清 |
| ステージ Ⅲ |
術前化学放射線療法 + 手術 |
| ステージ Ⅳ |
化学療法・放射線療法・緩和 |
がんは粘膜から徐々に奥へ染み込むように広がります。
粘膜内(T1a)にとどまる場合
リンパ節転移の可能性が低いため、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)でがんの部分だけをはぎ取る治療が行われます。
筋層(T1b)まで達する場合
リンパ節へ広がる危険性が高くなるため、食道を切除して胃や腸を引き上げて再建する手術が必要になります。
周囲のリンパ節に転移がある場合(N1以上)
目に見えないがん細胞を叩く目的で抗がん剤を組み合わせます。代表的な化学療法はシスプラチンと5-FU(フルオロウラシル)を用いる FP療法で、手術前に行うことで腫瘍を小さくし、手術後に行うことで再発を防ぎます。
全身状態が良ければ、より効果の高いドセタキセルを加えたDCF療法が選ばれることもあります。
手術が難しい場合や高齢で体力がない場合は、抗がん剤と放射線を同時に行う化学放射線療法で根治を目指します。
他の臓器にまで転移した場合(M1)
がんを完全に取り除くことが難しいため、化学療法を中心とした全身治療で進行を抑えることが目的になります。

