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事例あり!精神看護過程の書き方【アセスメント編】~セルフケア理論を使おう~

看護実習
公開日

精神看護における看護過程では、症状だけでなく「その人の暮らし」や「必要としている支援」に目を向けた個別的な視点が求められます。

この記事では、精神看護実習におけるオレムの「セルフケア理論」を用いたアセスメントの書き方を、事例とともにわかりやすく解説しています。ぜひ参考にしてください。

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精神看護過程の特徴とは?

精神看護過程では、精神症状の有無だけでなく、患者さまの生活リズムや対人関係、社会とのつながりといった幅広い側面に目を向けることが求められます。

精神疾患は長期化しやすく、症状の再燃や再発を繰り返すことも多いため、急性期のような「治療中心」の看護とは異なり、「安定した生活を支えること」や「その人らしさを大切にすること」が看護の目的となります。そのため個別性の高い支援や信頼関係に基づいた継続的な関わりが重要となるのが特徴です。

精神看護学実習でよく受け持つ事例

統合失調症で一度受診するも継続受診が困難となり、状態悪化により入院となった患者さまの事例をご紹介します。

<事例>B氏の一般情報

基本情報
B氏 28歳 男性
診断名
統合失調症
既往歴
20歳ごろから対人関係の苦手さが目立ち始め、大学を中退。その後は自室にこもる生活が続いた。数年間は家族との会話も減少し、24歳ごろから「誰かに監視されている」「盗聴されている」などの被害妄想が出現。
家族の勧めで一度受診するも継続受診は困難となり、状態悪化により入院となった。
現在の症状
  • 強い被害妄想(監視されている、不当に扱われていると感じる)
  • 対人緊張が強く、集団の場を避ける傾向
  • 日中も臥床傾向が強く、活動性が低下している
  • 無為(無気力)やセルフケアの困難がみられる
  • 声かけには反応するが、会話は断片的で内容のまとまりに欠ける
  • 生活状況
    現在は精神科閉鎖病棟に入院中。洗面・更衣・服薬管理など日常生活全般に支援を要する。
    食事は自室で摂ることが多く、食堂には出てこない。人との関わりを避ける傾向があり、看護師との関わりも限定的で、プログラム参加などにも消極的。
    夜間の睡眠は中途覚醒を繰り返している
    家族背景
    実家暮らし。両親と妹の4人家族。
    父親は会社員、母親は専業主婦。
    家族は息子の病状を心配しており、面会にも協力的だが、病気への理解は十分とは言えず、将来的な関わり方に不安を抱えている。
    患者自身は退院後の生活について話すことは少なく、「このままでいい」と発言することがある。

    セルフケア理論を用いたアセスメント例

    セルフケア
    構成要素
    アセスメント セルフケア
    レベル
    根拠
    1.空気、水、食物の摂取 食事は採れているが、ほぼ自室で摂取しており孤食傾向が強い。
    水分摂取や栄養バランスへの意識は乏しい。
    声かけによる確認と対応が必要である。
    レベル3
    支持・教育
    摂取行動は可能だが、内容やタイミング調整に看護師の働きかけが必要である。
    2.排泄の管理 特に問題なし。ただし、日中の活動量が低く、排泄パターンや便秘傾向には注意が必要。必要に応じて観察と声かけを行う。 レベル5
    完全自立
    現時点ではセルフケアが可能であり、支援は不要。
    3.活動と休息のバランス 無為・臥床傾向が強く、活動量が低下しており、休息と活動のバランスが崩れている。 レベル2
    部分補助
    最低限の活動すら自発的には困難であり、看護師の促しが必要不可欠である。
    4.身体清潔・整容 清潔保持が困難であり、洗面や更衣の声かけ・付き添いが必要。セルフケアの動機づけが低下しており、日常生活動作の関与が乏しい。 レベル1
    完全補助
    全面的な援助が必要。セルフケアの動機づけが低く、自発的な行動は見られない。
    5.社会的交流と孤立の防止 他者との交流を避ける傾向が強い。会話は断片的であり、対人関係に強い緊張が見られる。社会的役割や人間関係の再構築が課題である。 レベル1
    完全補助
    対人関係において支援なしでは成り立たず、交流を開始するにも強い支援が必要。
    6.危機回避正常な機能の維持 被害妄想により、他者への環境への過度な警戒がある。誤解や混乱によるトラブルのリスクがあるため、安心できる環境と見守りが必要。 レベル2
    部分補助
    判断力が低下しており、誤解や混乱のリスクがある。看護師の観察と安全確保が必要。
    7.成長と発達 長期的な引きこもりと入退院歴があり、社会的発達が停滞している。将来への展望をもてず、「このままでいい」と発言するなど意欲低下が著明。 レベル1
    完全補助
    自己成長や将来への意欲がなく、看護師への支援がなければ発達課題に向き合えない。

    セルフケア理論を用いたアセスメントのポイント

    精神科における看護実践では、患者さま一人ひとりの「生活」を丁寧に捉え、どのような支援が必要かを見極めることが重要です。オレムのセルフケア理論は、患者の生活機能を6つの構成要素から整理する枠組みを提供し、看護の方向性を明確にしてくれます。

    統合失調症 男性患者B氏(28歳)の事例

    ここでは、統合失調症の男性患者B氏(28歳)を事例に、セルフケア理論を用いたアセスメントの具体的な視点とポイントを解説します。

    ①空気・水・食物の摂取

    B氏は、病棟内での食事は摂取できているものの、食事中は終始無言で、周囲との交流を避ける姿勢が見られています。栄養バランスや水分摂取への関心も薄く、看護師からの声かけがないと食事を残してしまうこともあります。

    「食事を摂っているか」だけでなく、「摂食行動に心理的・社会的な妨げがないか」を見極めることが重要です。被害妄想がある患者さまは、「食べ物に何か入っている」と感じ、食事を拒否するケースもあります。

    今回はそこまで強い妄想は見られないものの、「見られている」「監視されている」という感覚が、食事行動に影響している可能性があるため、安心できる環境づくりと食事に関する信頼関係の構築が求められます。

    ②排泄の管理

    排泄は自立しており特段の支援は必要ありません。しかし、活動性の低さと服薬(抗精神病薬)の影響により、便秘傾向となる可能性があります。

    精神科病棟では、排泄の変化を訴えにくい患者さまも多いため、日々の観察と定期的な聞き取りが重要です。「排泄ができるか」だけでなく、「排泄を支える環境(トイレ誘導、羞恥心への配慮)」や、「薬の影響と排泄の関連性」への配慮もアセスメントに含める必要があります。

    ③活動と休息のバランス

    B氏は日中ほとんどベッドで横になっており、活動的な様子は見られません。声かけに反応はするものの、自発的に動くことはなく、プログラム参加などにも消極的です。夜間の睡眠は中途覚醒を繰り返しているという報告もあります。

    「活動性の低さの背景」に注目することが重要です。陰性症状(意欲の低下、無関心)がある場合、自発的な行動が困難となるため、患者自身の「やる気のなさ」として捉えるのではなく、「症状の一部」として理解する必要があります。まずは生活リズムの再構築を目指し、短時間の離床や、看護師との会話をきっかけとした軽微な活動から始める支援が有効です。

    ④身体清潔・整容の維持

    B氏本人からの申し出や行動はほとんど見られず、清潔保持(洗顔、整髪、更衣など)は看護師の声かけと付き添いがないと実施できません。陰性症状による関心の低下と、被害妄想による「水に毒が入っているのではないか」といった不安も影響している可能性があります。

    「清潔を保つ能力」だけでなく、「清潔行動に対する意欲」「それを妨げる精神症状」への理解が不可欠です。患者にとって清潔保持がどんな意味を持つか(自尊心、羞恥心など)を尊重しながら、「声かけのタイミング」「人との関わりの負担を減らす支援方法」を検討することが求められます。

    ⑤社会的交流と孤立の防止

    B氏は人との関わりを避ける傾向があり、会話は断片的です。話しかけには反応がありますが、会話が持続せず、信頼関係の構築には時間がかかります。これは対人緊張や妄想の影響と考えられ、特に「視線を合わせない」「他人に聞かれているような感覚がある」といった訴えが見られる場合には、慎重な対応が求められます。

    この構成要素のアセスメントでは、「交流の頻度」「信頼できる存在の有無」「孤立への不安の程度」を把握することに加え、「安心して関われる環境づくり」が看護実践のポイントになります。患者にとって安全な距離を保ちながら、徐々に関わりの輪を広げていくことが必要です。

    ⑥危険の回避と正常な人間機能の維持

    被害妄想が強く、「監視されている」といったような訴えがあります。現在は落ち着いているものの、妄想が強まると混乱や衝動的な行動が見られるリスクもあります。

    「認知のゆがみがどれだけ日常生活に影響を与えているか」「安全を守るためにどの程度の支援が必要か」に焦点を当ててアセスメントします。看護師は、発言や行動の変化に敏感に反応し、心理的安全の確保と、症状を刺激しない対応を行うことが求められます。

    個別化のための有効的な視点

    このように、オレムの6つのセルフケア構成要素に基づくアセスメントは、患者さまの生活全体を多角的に捉え、看護実践を個別化するための有効な視点を提供してくれます。

    精神看護では、「できる/できない」だけで判断するのではなく、 「なぜできないのか」「何があればできるのか」に注目し、患者さまとともに生活を再構築していくことが重要です。

    ⑦「成長と発達」

    加えて、セルフケア構成要素の7つ目にあたる「成長と発達」は、看護実践において補足的な視点として活用されます。これは、患者さまの年齢だけでなく、心理社会的な発達段階や社会経験の進行度に応じたセルフケア能力の評価において重要です。

    たとえば、統合失調症の患者さまでは、B氏のように発症が思春期や青年期であることが多く、その後の社会的発達や自立が停滞・後退しているケースも少なくありません。そのため、現在の発達段階を把握し、それに応じた支援や関わり方を行うことが、より的確な看護介入につながります 。

    精神看護過程の情報収集のポイント

    患者さまの特徴

    精神疾患を抱える患者さまは、対人関係においてさまざまな困難を抱えていることがあります。中でも統合失調症やうつ病、双極性障害などの患者さまは、強い対人不信感や「人に見られている」「監視されている」といった被害的な認知を抱えているケースが少なくありません。

    そのような状態にある患者さまと信頼関係を築くためには、まず「この人は話を聴いてくれる」「ここでは安心して過ごせる」と感じてもらえるような関わり方がとても重要です。

    信頼関係の構築が看護実践のはじまり

    精神科看護では「無理に変えようとしない」「あるがままの姿を理解しようとする」姿勢が信頼構築の第一歩となります。患者さまの話の内容が現実とかけ離れていたとしても、「それは違います」とすぐに否定することは避けなければなりません。まずは、「この人は私の感じていることを理解しようとしてくれている」と思ってもらうことが大切です。

    信頼関係は、患者さまが安心して自分の状態を表現したり、ケアを受け入れたりするための土台となります。信頼がなければ、患者さまは看護師の言葉や行動に対して不信感を抱き、支援を拒否することもあります。

    反対に信頼関係が築けていれば、少しずつ自己開示が進み、患者さま自身が回復への意欲を持つきっかけにもつながります。そのため、精神科看護においては、信頼関係の構築こそがすべての看護実践の出発点となるのです。

    信頼関係を築くコミュニケーション

    精神疾患患者さまと関わる際に意識したいコミュニケーションの具体的なポイントを、以下にまとめました。

    無理に話させようとしない

    精神疾患のある患者さまは、対人関係に不安や警戒心を抱えていることが多く、話すこと自体に強い抵抗を感じている場合もあります。そのため、会話を無理に引き出そうとせず、患者さまが話し始めるまで待つ姿勢がとても大切です。

    沈黙を無理に埋めようとせず、静かな時間も「一つの関わり」として受け入れましょう。焦らず、患者さまのペースに合わせた対応を心がけることで、安心して話せる関係が少しずつ築かれていきます。

    否定せずに受け止める

    精神疾患のある患者さまが語る内容には、妄想や幻聴といった現実とは異なる体験が含まれていることがあります。そのような話が出た際にも、「それは違う」「そんなことはない」と否定せず、「そう感じているのですね」「怖い思いをされているのですね」といった形でまずは受け止める姿勢が大切です。

    患者さまの主観的な体験を尊重し、安心して話せる関係を築くことが、信頼関係の第一歩となります。

    非言語的コミュニケーションで安心感を伝える

    言葉だけでなく、表情や視線、うなずきなどの非言語的コミュニケーションも、信頼関係を築くうえで非常に重要です。

    優しい表情や落ち着いたまなざし、適切な距離感を保ちながら関わることで、「関心を持っている」「安心して話していい」というメッセージを伝えることができます。特に不安や緊張が強い患者さまには、言葉以上にこうした態度が安心感を与える手段となります。

    声かけは簡潔で分かりやすく

    精神疾患のある患者さまは、思考や集中力が低下していることが多く、長く複雑な説明は理解しづらい傾向があります。そのため、 声かけはできるだけ短く、具体的でわかりやすい表現を心がけましょう。伝えたい内容は一度にひとつに絞り、ゆっくりと落ち着いた口調で伝えることで、患者さまの安心にもつながります。

    リフレクティブリスニングを活用する

    リフレクティブリスニングとは、相手の話した内容をそのまま、あるいは要約・言い換えて繰り返すことで、「あなたの話をしっかり聴いていますよ」という姿勢を示す傾聴の技法です。
    精神疾患をもつ患者さまに対しては、信頼感や安心感を育むうえでとても有効です。たとえば、患者さまが「誰かに見られている気がする」と話した場合に、「見られていると感じているのですね」と返すことで、共感的な姿勢が伝わりやすくなります。

    このような丁寧な関わり方を通じて、少しずつ信頼関係が築かれていくことで、患者さまが安心して自分の状態や困りごとを話せるようになります。その結果、看護師が必要な支援を適切に提供しやすくなるという好循環につながります。

    患者さまの全体像の把握をしよう

    精神科看護では、「症状」だけを見てアセスメントするのではなく、患者さまの人生や生活全体を見渡す視点が必要です。そのためには、生物学的・社会的・心理的という3つの側面から総合的にアセスメントを行うことが重要になります。

    生物学的側面

    身体的な健康状態や生活リズムの把握が主なポイントとなります。

    薬物療法の効果と副作用
    抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬などがどのように効いているか、また副作用(体重増加、錐体外路症状、便秘、眠気など)の影響が日常生活に出ていないかを確認する。

    睡眠・食事・活動などの基本的生活リズム
    睡眠が十分に取れているか、食事は摂れているか、活動性が保たれているかなど、日々の生活リズムの乱れが症状の悪化につながることもあるため、注意深く観察する。

    体的な合併症の有無
    糖尿病や高血圧などの生活習慣病の有無、服薬による内科的な影響にも目を向ける必要がある。

    社会的側面

    社会とのつながりをどう築いているか、その基盤となる環境や支援状況についても確認が必要です。

    家族との関係性
    家族の理解や支援体制、同居かどうか、過去の関係性(葛藤や断絶など)もアセスメントに重要となる。

    生活環境(地域での暮らしの準備など)
    退院後の居住先の有無、地域支援サービスの利用状況や可能性など、患者さまが地域で生活するうえでの基盤を確認する。

    経済的背景と支援制度の活用
    生活保護、障害年金、就労支援制度など、患者さまが利用可能な制度についての理解と、実際の利用状況も看護支援に直結する。

    心理的側面

    精神疾患の中核である「心」の状態について、患者さまの語りや行動から読み取っていきます。

    妄想や幻聴の内容と影響
    どのような内容で、日常生活にどの程度支障をきたしているのか。妄想に巻き込まれやすい場面や時間帯の把握も重要。

    不安・抑うつ・意欲の低下
    表情、発言、行動などから情緒面の変化を読み取り、患者さまが何に不安を感じているのか、気分の波はどうかを把握。

    自尊感情の状態と回復の見通し
    自分をどう評価しているか、過去の経験からくる自己イメージ、今後の生活に希望を持てているかなどを丁寧に探る。

    看護観を育てる大切な機会

    精神看護実習では戸惑う場面もあるかもしれませんが、患者さま一人ひとりに丁寧に向き合うことで、看護の奥深さとやりがいを実感できると思います。
    「セルフケア理論」の視点を活用しながら、自分自身の看護観を育てる大切な機会として、ぜひ頑張ってください。

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