「SOAP」形式の看護記録の書き方 ~【例文あり】わかりやすく具体例で解説~

看護記録の書き方で「SOAP」形式という聞き慣れない用語に頭を抱えている看護学生は多いでしょう。「SOAP」形式は、患者さまの情報を整理するための重要な記録方法で、多くの医療現場で使用されています。
ここでは、看護実習を控えている看護学生に向けて、SOAP形式の基本から具体例までわかりやすく解説します。実際の現場で役立つポイントや注意点も紹介しているので、参考にしてみてください。
目次
SOAPの基本的な書き方
SOAPとは医療現場で患者さまの状態を正確に把握するための看護記録形式です。経過のみを記録するだけではなく、患者さまの問題点を明確にするために、4つの項目に沿って順序立てて記載していく点に特徴があります。
SOAPでは、以下の4つの項目に分けて記録を行います。
S (主観的情報) |
患者さまや家族の訴え、話したこと |
---|---|
O (客観的情報) |
バイタルサインや検査結果など、看護師が観察したデータ |
A (評価) |
SとOから患者さまの状態を分析し、問題点を明確化 |
P (計画) |
評価結果に基づいて、具体的な看護計画を立案 |
SOAP記録を活用することで、患者さまに必要なケアが明確になり、正確な看護記録と質の高い看護ケアが提供できるようになります。
SOAPを用いた経過記録の具体的な書き方
SOAPを用いた記録には、患者さまの情報が整理しやすくなるというメリットがあります。ほとんどの電子カルテでは、看護師がSOAPでの記録を用いて、患者さまの看護問題を立案しています。
これから看護実習でよく取り上げられる状況について、SOAPを用いた記録の事例を紹介していきます。
「転倒転落」のSOAPの書き方
転倒転落の看護ケアが必要かどうかを判断するための経過記録は、以下のようなSOAPとなります。
【事例】Aさんの場合(70歳、女性)
右大腿骨転子部骨折、術後5日目
入院前のADLはほぼ自立、現在は歩行器をリハビリで練習中
S (主観的情報) |
昨日の夜にトイレに行こうとして立ち上がったら、足がもつれて転んでしまったの。また転んだらどうしよう。 |
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O (客観的情報) |
昨夜22時にベッドサイドで転倒 歩行時ふらつきあり 転倒時のバイタルサイン:BP 135/85、HR 88、SpO2 98% 疼痛:腰部 NRS 5/10 右下肢 NRS 3/10 |
A (評価) |
夜間の眠気が転倒の原因と考えられる。 疼痛が出現し、歩行時のふらつきもあるため、再度転倒する可能性がある。 |
P (計画) |
移動時は、ナースコールをするように指導する。 夜間の排泄はポータブルトイレの使用を提案する。 疼痛部位の冷罨法と疼痛の程度の観察。 |
Sを記載する時は、看護師の解釈を入れないのがポイント!
Sは患者さまの発言を記録するため、看護師の解釈を入れないことがポイントです。
例えば「また、転んだらどうしようと困った顔をしている」とすると、表情をくみ取った内容が含まれてしまうので、SOAP記録として不適切です。
O情報のあいまいな表現には注意が必要
痛みの状況を記載する時に「やや改善」「軽度あり」など、あいまいな表現は正しくありません。痛みの程度を客観的な指標とする場合は、VASやNRSなどのスケールを使用することをおすすめします。
「環境整備」のSOAPの書き方
病室の環境整備は、受け持ち患者の日々の生活に密接に関わる場面なので、経過記録を作成する機会も多いでしょう。
【事例】Bさんの場合(75歳、女性)
糖尿病、血糖コントロール不良による下肢皮膚炎で入院
S (主観的情報) |
昨日、ナースコールがどこにあるかわからなくて、探したのよ。動くのが面倒だから、周りに必要なものは置いておいて欲しいわ。 |
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O (客観的情報) |
ナースコール設置部分に巾着が下がっている。 ナースコールは床に落ちている。 |
A (評価) |
ナースコールが適切に設置されていないため、必要な時に看護師を呼ぶことができない。 環境整備の必要性の理解が不十分である。 |
P (計画) |
ナースコールを適切な位置にセッティングする。 ベッドサイドまでのコードの配置を調整する。 |
Oは詰め込みすぎず、必要な情報だけを書くのがポイント!
Oは客観的な情報を記入しますが、情報を詰め込みすぎると文章が長くなり、状況が見えづらくなることがあります。必要な情報だけに絞ることで、AとPが明確になり、個別性のある看護計画が立てやすくなります。
「排便コントロール」のSOAPの書き方
排便コントロールは入院生活の中で看護問題として挙げられやすい項目なので、記載のポイントをしっかりと押さえましょう。
【事例】Cさんの場合(68歳、女性)
外傷性左脛骨骨折、プレート固定術後8日目
現在は免荷なのでほとんどが車椅子移動。リハビリでは松葉杖歩行の練習中
S (主観的情報) |
昨日、浣腸してもらったからスッキリしたわ。もう浣腸は嫌だから、お茶を飲むようにしたわ。 |
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O (客観的情報) |
12月6日、7日、8日排便なし。腹部マッサージでも排便なし。 12月8日15時:グリセリン浣腸60ml施行後排便あり(ブリストルスケール2・手のひら大) 12月6日〜8日までの1日水分摂取量700ml/日 12月9日水分摂取量(12時時点)は800ml(朝食の牛乳150ml含む) |
A (評価) |
ブリストルスケール2で硬い便が見られるので、1日の水分摂取量が少ないと考えられる。浣腸によって一時的な排便は得られたが、便秘が慢性化する可能性がある。 |
P (計画) |
1日1,500ml以上の水分摂取を目指すよう指導し、引き続き摂取量を記録する。 腸の動きを促進するための腹部マッサージを継続する。 自然排便がない場合には、便秘の緩下剤を検討する。 |
Pでは具体的なケアの内容を考えよう!
Pは実際に患者さまにケアする内容を具体的に記載することが大切です。
水分摂取の必要性が高い場合に「水分を増やす」と書くのではなく、「1日1,500ml以上の水分を摂取する」と具体的に記載すると、看護ケア後に評価しやすくなります。
「食事低下状況」のSOAPの書き方
食事低下の看護経過は、疾患によって食事制限がある場合の記録もありますが、今回は療養生活による影響がある患者さまの事例を取り上げます。
【事例】Dさんの場合(70歳、男性)
前立腺がん、術後3日目
ADL自立、尿道留置カテーテル挿入中、他の基礎疾患なし
S (主観的情報) |
最近、食べてもおいしく感じないし、量も減ってきた。最近は無理に食べなくてもいいかなと思う |
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O (客観的情報) |
体重は1週間で2kg減少(48kg→46kg) ここ2日間、朝食・昼食ともに食事摂取量は30%以下 昼食時、食事にほとんど手をつけず、長時間椅子に座ったまま BP 118/72mmHg、P 80回/分、T 36.4℃、SpO2 98% 皮膚が乾燥していて、落屑あり |
A (評価) |
食欲低下により体重減少がみられる。 脱水傾向も見られるため、食事と水分摂取の必要性が高い。 精神的・身体的要因による摂取量低下も考えられるため、原因追求が必要である。 |
P (計画) |
1日1,500ml以上の水分摂取を促す。 食事内容や提供方法を変更し、嗜好に合わせたメニューを提案する。 体重、食事摂取量、水分摂取量を毎日モニタリングし、経過を観察する。 精神的なストレスを傾聴する。 |
経過記録は介入前後を比較できる情報収集を心がけよう
経過記録を作成する時は変化をたどる必要があるので、前後の状態を客観的に評価できる記録方法が大切です。
SとOにない情報ではアセスメントはできないので、必要な情報を整理しておくと、正確な評価とプランを作成できます。
「呼吸状況」のSOAPの書き方
【事例】Eさんの場合(70歳、男性)
肺炎にて加療目的による入院中(入院10日目)
入院前 タバコ15本/日
S (主観的情報) |
夜寝ていると息苦しい。痰がうまく出せないからイライラする。 |
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O (客観的情報) |
胸郭聴診では右上葉部に湿性音あり。 BP122/76mmHg、P92回/分、SpO2 94% 吸引で粘稠の白色痰が多量に引ける。SpO2 96%。 昼食後の訪問時、ベッド上で入眠中。 |
A (評価) |
自己排痰が難しく、呼吸困難感があり。 呼吸状態が悪化しているので、排痰を促す必要がある。 |
P (計画) |
吸引による排痰で呼吸状態を安定させる。 体位ドレナージの実施と呼吸リハビリ指導で、自己排痰を促す。 SpO2のモニタリング。 |
Aには診断ではなく、病状の変化を記録しよう!
看護記録では、SとOの情報で病状の程度をアセスメントとするので、「肺炎を発症している」などの診断は書きません。
バイタルサインや病状が改善しているのか、悪化しているのかということに着目して、看護記録を作成しょう。
看護記録をSOAPで書く理由は?
看護記録をSOAPで書く理由は、患者さまの情報をわかりやすく整理し、看護ケアの内容を共有しやすくするためです。
SOAPは、主観的な訴えや客観的なデータ、評価、計画を項目ごとにまとめることで、患者さまの状態や必要なケアの明確化が可能です。また、日々の振り返りと次のケアを考える時に根拠のある看護計画が立てやすく、次の計画に迷った時にも役立ちます。
さらに、SOAPを順序立てて書くことで、患者さまの理解が深まり、指導者に個別性のある看護ケアを報告しやすくなります 。
SOAPで看護記録を書くことで自分の考えが整理され、よりよい看護ケアの提供につながるでしょう。
実習でSOAPを活用する場面
SOAPでの看護記録は、患者さまの問題ごとに情報を整理して書くことが大切なポイントです。
患者情報をS (主観的情報)・O (客観的情報)に分類することで、評価(A)が明確になり、患者さまに必要な看護計画(P)が導き出せます。
実習では、患者さまの情報から「どう考えてどんなケアが必要か」を考えることが求められます。最初のうちはSOAPを用いた看護記録は難しいかもしれません。SOAPでの経過記録では、情報の整理から看護ケアを導き出すための「手段」として活用してみてください。