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事例あり!成人・急性期看護過程の書き方【アセスメント編】~フィジカルアセスメント

看護実習
公開日

成人看護学実習Ⅰでは、急性期疾患を抱える患者さまを受け持ち、短期間で病態や治療方針を把握しながら適切な看護を提供する力が求められます。
本記事では、実際の事例をもとに、看護過程におけるフィジカルアセスメントの視点を詳しく解説します。成人看護学実習Ⅰでのアセスメントの進め方が具体的に理解できるよう、ぜひ参考にしてください。

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成人看護学Ⅰ(急性期)の特徴とは?

成人看護学実習Ⅰでは、成人の急性期から回復期に向かう対象の特徴を理解し、生命の維持・健康の回復へ向けた援助ができる基礎的能力を養うことを主な目的としています。

急性期の患者さまの特徴は、病状が短期間で変化しやすく、迅速かつ的確なアセスメントと看護ケアが求められます。
例えば、循環器疾患や呼吸器疾患など、生命に関わる状態の変化が起こりやすいのが特徴です。

急性期での実習で、看護学生が目標とすべきことを以下にまとめました。

  1. 生命の危機的状態から回復に向かう成人期の対象を、身体的・精神的・社会的側面から総合的に理解できる
  2. 手術療法に伴う身体侵襲を予測し、術後合併症予防のための援助ができる
  3. 術後の回復を促進するための援助及び社会復帰への援助ができる

「見逃さない」フィジカルアセスメントの具体的視点とは?

フィジカルアセスメントとは?

フィジカルアセスメントとは、患者さまの身体的状態を総合的に評価し、病態やケアの必要性を判断するための技術です。とくに急性期看護においては、 異常の早期発見と迅速な対応が求められるため、極めて重要となります。

フィジカルアセスメントの具体的な視点

フィジカルアセスメントの具体的な視点を紹介します。

人が生命を維持するためには、酸素が全身に供給されているかを把握する必要があるため、酸素の通り道の順に確認していきます。

気道 ・気道閉塞の有無
・発声が可能か
呼吸状態 ・呼吸数・呼吸音・リズム・努力呼吸の有無
・SpO2(酸素飽和度)
・頸静脈怒張の有無
循環動態 ・血圧・心拍数
・心音・異常音の聴取
・四肢の冷感、蒼白
・橈骨動脈触知の有無
・尿量
・尿性状(混濁・血尿など)
中枢神経障害 ・意識レベル (JCS・GCS評価)
・瞳孔の対称性・対光反射
・痙攣・四肢麻痺の有無
皮膚の状態 ・低体温・高体温・発熱の有無
・創部の状態(術後)
・外観の異常の有無

成人看護学実習Ⅰ(急性期実習)でよく受け持つ事例

急性心筋梗塞(AMI)を発症した患者さまの事例を紹介します。

<事例>S氏の一般情報

基本情報
S氏 59歳 男性
既往歴
・高血圧(40代後半より降圧薬内服開始。)
・脂質異常症(50代前半で診断され、スタチンを内服中。)
・Ⅱ型糖尿病(HbA1c 7.8%、食事療法に加えて、昨年から経口血糖降下薬の内服が開始。)
現病歴
R6年3月、労作時の胸部圧迫感と背部痛を自覚し、近医を受診。
心電図検査と血液検査(トロポニンT上昇)にて急性心筋梗塞の疑いで、精査目的のため緊急入院。
冠動脈造影検査(CAG)にて左前下行枝(LAD)近位部の高度狭窄を認め、ステント留置術(PCI)を実施。

その後、血行動態は安定したが、心機能低下による心不全徴候(息切れ・起坐呼吸)が出現し、利尿剤の投与と、酸素療法が開始。(鼻カニューレ1L/分使用)
また、動悸・息切れのためβ遮断薬が導入され、胸痛コントロールのため硝酸薬を使用している。
心理状態
【突然の発症に対する動揺】
「高血圧とか糖尿病はあったけど、今まで症状は何もなかったからお酒も食事も好きなように摂っていた。まさか心筋梗塞になるとは思わなかった、自分の管理不足を痛感しているよ。これからは気をつけないとね。」

【仕事復帰への不安】
「会社に迷惑をかけたくないが、今の体調では復帰できるのか…自分にはもう何もできないと感じる。」

【再発の恐怖】
「また同じような発作が起きたらどうしようと不安になる。」

【生活制限へのストレス】
「減塩食は味がしないから食欲がわかないね。好きなものが食べられないのがつらい。」
「日々の生活でストレスを感じ、どう対処していいのか分からない。」
生活歴
会社員として約40年間勤務。
部長職として多忙な日々を送り、仕事が終わるのは21時頃が常だった。
平日は毎日同僚と外食し、飲酒する習慣(週5日、焼酎2合程度)があり、帰宅前にラーメンを食べることも多かった。
現在は体調不良のため休職中。
喫煙歴あり(35年間、1日20本喫煙。5年前に禁煙に成功。)
家族歴
妻と二人暮らし。長女一家(2歳の孫を含む)が車で5分の距離に住んでいる。
栄養状態
入院前体重88.6kg、身長172cm、BMI 29.9
現在は心不全の影響や、好まない減塩食のため食欲低下があり、摂取量は2~3割程度。
運動機能
階段昇降時や歩行時に息切れを自覚しており、長時間の歩行が困難となっている。
現在、歩行器を使用し、立ち上がりには介助が必要な状況。
睡眠状態
夜間の呼吸困難や起坐呼吸があり、枕を高くして寝ることが増えた。
また、「夜中に何度も目が覚め、十分に眠れていない。」「寝返りをすると胸の痛みが走り、熟睡できない。」と訴えている。

S情報・O情報から導き出せるアセスメント例と押さえておきたいポイント

ゴードンの機能的健康パターンを用いてアセスメントを展開します。

健康知覚-健康管理パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「高血圧とか糖尿病はあったけど、今まで症状は何もなかったからお酒も食事も好きなように摂っていた。まさか心筋梗塞になるとは思わなかった、自分の管理不足を痛感しているよ。」   ・高血圧、脂質異常症、糖尿病などの既往歴、長年の喫煙歴あり。

・多忙生活を送り、平日は毎日外食、飲酒、〆のラーメンを摂取する習慣あり。
・既往歴や長年の不規則な生活習慣(多忙な勤務によるストレスや睡眠不足・過度な飲酒・塩分過多な食事・深夜の食事など)が今回の急性心筋梗塞の発症要因であったと考えられる。
生活習慣の見直しと再発予防を目的に、減塩を含めた規則正しい食事の重要性などについての健康教育を実施し、S氏が自身の健康状態を正しく理解し、日々の血圧や体重管理などの自己管理能力の向上を促す支援が必要である。

栄養・代謝パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「減塩食は味がしないから食欲がわかないね。好きなものが食べられないのがつらい。」   ・入院前体重88.6kg、身長172cm、BMI 29

・減塩食による食思不振により、摂取量は2~3割程度。
・BMI値から肥満(Ⅰ度)と分類され、再発予防の点からも適正体重への減量が必要である。また、心不全患者ではナトリウム制限が病状管理に有効である。減塩食の重要性を理解してもらうための具体的な栄養指導と、減塩食でも美味しく食べられるような個別の食事プラン作成を、栄養士や医師と連携しながら行なっていく。

排泄パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「普段は特にトイレに関して不安はないが、最近は夜中に何度かトイレに起きることがある。」

・「便秘にならないか心配。」  
・利尿剤の使用を開始後、夜間排尿2〜3回あり。

・飲水制限は1200ml/日で指示を守れている。
・利尿剤内服の影響により、夜間頻尿を引き起こしていると考えられる。夜間頻尿は、熟眠感の不足につながるため、医師と相談し、薬剤服用時間の調整などを行い、排泄リズムの安定化を図っていく必要がある。

・また、利尿剤の内服に加えて、活動量の低下によっても便秘のリスクがある。排便時の過度な怒責は心血管系に大きな負担をかけ、再発リスクを高める。医師と相談し、緩下剤などの使用を検討し、適切な排便コントロールが重要である。

活動・運動パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「歩くとすぐ息切れしてしまう。」

・「階段を上るのは非常に辛く、以前のように動けないのが悔しい。」  
・階段昇降や歩行時に客観的な息切れが認められ、歩行器を使用しており、立ち上がりには介助が必要な状態。 ・歩行時の息切れや筋力低下が認められるため、無理のない範囲でのリハビリテーションや段階的な運動療法、日常動作の改善支援を通じた活動機能向上の支援が必要である。リハビリテーション実施時は、血圧・心拍のモニタリングを行い、症状の増悪に注意して観察する必要がある。

睡眠・休息パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「夜中に何度も目が覚め、十分に眠れていない。」

・「寝返りをすると胸の痛みが走り、熟睡できない。」  
・夜間の呼吸困難や起坐呼吸が認められ、客観的には睡眠時の体位調整(枕を高くする、セミファウラー位)が必要な状態

・寝返り時の痛みや胸部の不快感により、頻繁な覚醒パターンが確認される。

・再発に対する不安を訴えている
・夜間の頻繁な覚醒や睡眠時の不快感が確認されるため、適切な体位調整や睡眠環境の改善、痛みおよび呼吸状態の管理を含む睡眠の質向上に向けた支援が必要である。

・睡眠環境の改善と体位調整(適切な寝具の使用、就寝前のリラクゼーション法の提案など)を指導する。

自己認識・自己概念パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「自分にはもう何もできないと感じる。」   ・ 病気の発症により、自己効力感の低下が見受けられ、自己概念の変化や精神的打撃が客観的にも確認される。

・発症後、以前の生活水準を維持できなくなったという変化が認められる。
・自己効力感の低下や自己概念の喪失が見受けられるため、共感的な姿勢で患者に接し、ポジティブなフィードバッグを提供することが重要である。また、達成可能な小さな目標を設定し、成功体験の積み重ねることで、患者が自己肯定感を取り戻せるよう支援する必要がある。

役割・関係パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「会社に迷惑をかけたくないが、今の体調では復帰できるのか…」

・「家族に迷惑をかけたくない。」  
・職場復帰に対する不安や、役割の喪失感が客観的に認められる。

・家族構成としては妻と二人暮らし、また、近くに長女一家が住んでいる。家族関係は良好。
・家庭や職場での役割喪失に対する不安が認められるが、家族関係は良好であり、サポートが期待できる。家族との連携を強化し、ソーシャルサポートを活用して、役割の再構築支援を社会福祉士とも連携し、行なっていく必要がある。

性・生殖パターン

S情報 O情報 アセスメント
・患者から直接的な性に関する訴えはない。   ・現段階で、性機能に関する具体的な問題の訴えは認められていないが、β遮断薬は副作用として性機能低下のリスクが存在する。 ・薬剤の副作用による性機能低下リスクは存在するため、必要時は医師と連携し、正確な情報提供と状況に応じて専門家への相談を促す支援が必要である。

コーピング・ストレス耐性パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「また同じような発作が起きたらどうしようと不安になる。」

・「日々の生活でストレスを感じ、どう対処していいのか分からない。」  
・表情や言動から、強い不安感やストレスが認められる。

・睡眠不足や軽度の焦燥感など、身体的なストレス反応も見受けられる。

・生活習慣の改善に対して前向きな発言が聞かれる一方、日常生活に制約が生じている辛さの表出もあり。
・強い不安やストレス反応が顕著であるため、リラクゼーション技法の指導や、家族と連携し、患者が安心して治療に取り組める環境づくりを支援していく必要がある。

価値・信念パターン

S情報 O情報 アセスメント
・「自分の管理不足を痛感しているよ。これからは気をつけないとね。」

・「好きなものが食べられないのがつらい。」  
・患者の価値観や信念に寄り添い、制限を感じながらも生活習慣の改善を続けられるよう支援をする必要がある。共感的なアプローチで患者の感情を理解し、具体的な代替案を提案することで、患者が自分の生活を改善していくためのモチベーションを高められるようサポートしていくことが重要である。

S情報・O情報から導き出せる押さえておきたいアセスメントのポイント

急性期では、症状や病態の変化が短時間で急激に進行することが多いため、一律の評価ではなく、患者さまそれぞれの状態に応じた個別性のあるアセスメントが重要です。

心不全兆候

PCI実施後の患者さまのアセスメントでは、合併症の早期発見や血行再建の効果評価が基本になりますが、S氏の場合はすでに心不全兆候が見られます。
心不全の重症度評価を行いながら、適切な管理と介入を早期に行う必要があります。

左心不全を引き起こりやすい

S氏は、左前下行枝(LAD)近位部の高度狭窄による急性心筋梗塞を発症しました。
LADは、左心室前壁・心尖部・心室中隔前2/3を栄養する主要な冠動脈であり、LAD 近位部の高度狭窄により急性心筋梗塞を発症した場合、左心室の収縮機能が低下し、左心不全を引き起こりやすくなります。
加えて、S氏は高血圧や糖尿病といった基礎疾患を抱えており、慢性的な心不全へ進行するリスクが高い状況です。

歩行時に息切れや夜間の呼吸困難、起座呼吸

S氏は歩行時に息切れや夜間の呼吸困難、起座呼吸が見られます。これらの症状は、主に左心不全による肺うっ血が原因と考えられます。
肺うっ血とは、左心室が血液を十分に送り出せなくなり、肺静脈圧が上昇する状態のことです。仰臥位では静脈環流が増加し、肺うっ血が悪化しやすくなり、呼吸困難が増強します。夜間に症状が悪化することが特徴です。
枕の数を増やす、ベッドを起こして寝る、夜間に何度も目を覚ますなどの状態が見られ、肺うっ血が進行している可能性が高いと予測されます。

右心不全を合併するリスク

現在、S氏には下肢の浮腫や頸静脈怒張、急激な体重増加などの右心不全兆候は見られません。しかし、左心不全が進行し肺うっ血が肺高血圧を引き起こし、右心室への負荷が増大すると、右心不全を合併するリスクがあります。
左心不全の進行を予防するためには、病態のモニタリング、適切なセルフケア支援、生活習慣の改善が不可欠です。

再発への不安や、生活制限によるストレス

さらに、S氏は現在、再発への不安や、生活制限によるストレスを強く感じていると予測されます。
心理的なストレスや不安は、心臓にさらに負担をかける可能性があるため、心理的サポートも重要な支援となります。

実践的な看護技術やアセスメント力を磨く

成人看護学実習Ⅰでは、急性期の患者さまを受け持ちます。
症状や病態が急激に変化するため、最初は緊張するかもしれませんが、この実習は実践的な看護技術やアセスメント力を磨く重要な機会です。
患者さまに寄り添い、サポートすることで、看護師としてのやりがいを感じられる瞬間がたくさんあると思います。

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