事例あり!老年看護過程の書き方【看護問題・看護計画編】

老年看護実習では、慢性疾患や障害をもつ高齢者が対象となる場合が多くあります。
完治する疾患とは異なり、病気や障害を抱えながらもその人らしい生活を送ることができるよう支援していくことが大切です。そのためには、看護の対象を単に健康を損ねているものとして捉えるのではなく、全人的に幅広く捉えアセスメントしていく必要があります。
今回は、大腸内視鏡検査目的で入院となったアルツハイマー型認知症患者である75歳女性の看護過程を展開していきます。
老年看護における看護問題や看護計画立案時のポイントを理解し、個別性に見合ったケアを実践できるようにしていきましょう。
目次
老年期の特徴を踏まえた看護問題の見つけ方
老年期の特徴
老年期の看護問題を見つける際は、老年期特有の「身体的」「心理的」「社会的」特徴をしっかりと理解する必要があります。
身体的特徴 | 恒常性維持機能の低下から転倒・感染・誤嚥・慢性疾患の悪化リスクが高い |
---|---|
心理的特徴 | 加齢に伴う喪失体験や孤立感から、抑うつや認知機能低下が生じやすい |
社会的特徴 | 家族や社会的役割の変化による孤立、経済的困難、社会参加の減少 |
リスクの高い領域に焦点を当て情報を収集し、アセスメントすることが重要です。
看護問題の見つけ方
老年看護においては、感染や転倒、誤嚥、せん妄などのリスクが高くなります。そのため、予防的視点を持ち、潜在的リスクを予測したアセスメントが重要です。
例えば、転倒歴がある場合には転倒予防を優先的に考え、過去にせん妄やBPSDを引き起こしたことがある場合には予防的看護計画を優先的に立案します。
看護問題の優先順位は、生命維持に直結する問題を最優先とし、その次に安全確保や生活の質向上に関わる問題を位置づけましょう。
老年期は複数の健康課題を抱えやすく、問題の優先順位を誤ると重篤化するリスクが高まるため、予防的視点での看護が不可欠です。適切な評価と早期介入が対象者の健康維持と生活の質向上に直結するため、全人的なアセスメントとリスクに基づいた看護計画が求められます。
看護問題の具体例
♯1 検査が安全に実施できない可能性
♯2 せん妄やBPSDが悪化するリスク
♯3 転倒・転落のリスク
#1 検査が安全に実施できない可能性
短期記憶障害により検査準備や手順の理解が困難で、検査が安全に実施できない可能性があります。
大腸内視鏡検査が安全に実施されることを目標に、検査前処置の薬剤の確実な投与や絶食指示の厳守、便性状の確認、検査前後の全身状態の観察が重要となります。
その際は、S氏の認知機能や心理状態に合わせた方法で実施することが大切です。
必要時は家族に付き添いを依頼し、安全の確保をします。
検査を実施するにあたり、患者の不安や苦痛が強く安全が確保できないと判断される場合には、検査自体が本当に患者にとって必要なものなのかを改めて医師や家族と相談することも必要です。
#2 せん妄やBPSDが悪化するリスク
現在S氏は、入院による環境変化や検査説明によるストレスなどから、認知症周辺症状であるBPSDを引き起こしていると考えられます。
現段階でS氏に出現している症状は、不安や焦燥、軽度の不穏といった初期症状です。
このまま放置したり対応を間違えたりすると、暴言や暴力行為、幻覚や妄想、不潔行動といったさらに深刻な症状に発展する恐れがあります。
BPSDが進行した場合、入院の目的である大腸内視鏡検査が実施困難になるだけでなく、転倒や感染など二次的な問題が発生する可能性が高く、S氏の予後が大きく悪化する可能性があります。
BPSDの悪化は認知症そのものの進行を早める可能性があり、介護度が高くなることで自宅退院が困難となり入院が長期化し、ADLが低下するなどQOLが大きく低下します。
BPSDの初期症状がみられた際は、早期に心理面の安定をはかり、適切なケアを提供することで症状の悪化を防いでいかなくてはいけません。
#3 転倒・転落のリスク
S氏はもともと、家庭菜園を趣味としていました。しかし、アルツハイマー型認知症の発症を機に外出頻度が減り、筋力の低下などから、歩行時にふらつきが見られている状態です。
さらに、現在はBPSDを引き起こし、軽度の不穏状態であることや、検査の前処置でトイレへ頻回に通うことなどからも転倒・転落リスクがさらに高くなると考えられます。
BPSDの改善を図ると同時に、頻回観察ができるようナースステーションに近い部屋やトイレに行きやすいベッド位置にするなどの環境調整も重要となります。
高齢者によくある症状を看護計画に書く時のポイント
老年看護において「BPSD発症予防」と「転倒・転落予防」の看護計画は必要不可欠といえます。
「BPSDの発症予防」
「BPSD予防」の看護計画立案時は、リスク因子を正確に把握することが重要となります。
患者の認知症の分類(アルツハイマー型・レビー小体型など)や性格・生活歴・趣味嗜好といった情報や、過去にBPSDを引き起こしたことがある場合はその要因の情報収集、そして「身体的要因」「環境的要因」「心理的要因」の把握をすることでリスク因子が特定でき、個別性に合った看護計画となります。
身体的要因 | 痛み、不快感、便秘、排尿困難、睡眠障害、視力障害、聴力障害、疾患の影響(感染症、慢性疾患など)、薬剤の影響(抗精神病薬、鎮痛剤、降圧剤など) |
---|---|
環境的要因 | 物理的環境(騒音、不適切な照明、障害物)社会的環境(孤立、馴染みのない人との接触) 生活環境変化(入院、転居、看護・介護スタッフの変動、食事や活動時間の変更)など |
心理的要因 | 認知機能の低下、不安、焦り、ストレス、抑うつ、孤独感など |
看護目標は患者の状態に合わせて短期目標や長期目標に分け、予防的かつ現実的な目標を設定します。
実際に看護介入する際は、チームで目標や看護計画をしっかりと共有し統一したケアを提供すること、他職種や家族とも連携することが大切です。
患者の尊厳を守り、過度な薬剤投与や身体拘束を避け、できる限り非薬物的療法の活用を心がけましょう。
「転倒・転落予防」
「転倒・転落」看護計画立案時は、転倒・転落リスクを「身体的要因」「心理的要因」「薬物」「環境的要因」に分け情報収集し、原因を明確にすることが重要です。
身体的要因 | 筋力低下、姿勢の悪化、平衡感覚の低下、視力・聴力障害、不整脈などの循環器系疾患、パーキンソン病や認知症などの神経系疾患、変形性関節症などの筋・骨格系疾患など |
---|---|
心理的要因 | 興奮、不穏、せん妄、不安、焦燥、注意力低下、判断力低下、見当識障害、眠気など |
薬物 | 鎮静睡眠薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、高圧薬、利尿剤、下剤など |
環境的要因 | 履物、段差、障害物、滑りやすい場所、明暗、階段、手すりの有無、坂など |
転倒リスクアセスメントツールなどを用いて数値化することで、リスクの程度を客観的に評価することができ、リスク要因に応じた具体的な看護介入が可能となります。
必要があれば、リハビリテーション導入の依頼や、薬物調整なども医師に相談しましょう。
転倒・転落予防の看護計画において重要なのは、定期的な評価とアセスメントです。
少なくても1週間に一度は、患者の状態変化に備えて評価し、再度アセスメントする必要があります。
老年看護では、認知症患者を対象とすることが多くあります。
認知症高齢患者は、脳神経障害の影響による歩行やバランス能力の低下、認知機能障害によって転倒しやすい状態にあります。そしてBPSDがさらに転倒を引き起こすリスクになるといえます。
ケアを実施する際は、一人の人として尊重し、その人のニーズに適切に対応することを心掛けましょう。
そうすることでBPSDが予防でき、転倒・転落の発生リスクも低下させることができます。
看護計画の具体例
#2 せん妄やBPSDが悪化するリスク
看護問題 |
---|
#2 せん妄やBPSDが悪化するリスク |
目標 |
BPSDの悪化がなく、安全に検査が実施できる |
OP |
|
TP |
|
EP |
|
#3 転倒・転落のリスク
看護問題 |
---|
#3 転倒・転落のリスク |
目標 |
転倒転落をしない |
OP |
|
TP |
|
EP |
|
老年期看護における高齢者との関わりは、その人の過ごしてきた人生経験や知恵に触れることができる重要な機会です。
実習でも、高齢者一人ひとりの背景や思い、価値観を大切にしながら、老年の看護過程を展開していきましょう。