老年看護学実習の事前学習
老年看護学実習では、さまざまな健康レベルの高齢者とその家族に対する看護過程の展開を行います。そのためには、対象理解のために事前学習をしておくことがとても大切です。ここでは、老年看護学実習の特徴と事前学習のポイント、実際の実習場面で役立つ資料や持ち物について解説します。
目次
老年看護学実習の特徴
老年看護学実習では、老年期にある健康課題をもつ人とその家族を総合的に理解し、対象者の健康レベルや生活史をふまえた看護実践を行うことが特徴です。そのためには、老年期における身体的・精神心理的・社会的変化を理解するとともに、その人の価値観や思いを尊重しながら関わることで、対象者との援助的関係を築くことが大切です。
また、近年は高齢者の療養の場が病院から地域へと移行しており、地域で生活する高齢者は増加傾向にあります。それぞれの健康課題に応じたより良い暮らしの実現にむけて、高齢者の生活を支える保健・医療・福祉職について理解するとともに、介護分野をはじめとした他職種との連携・協働や、看護の役割について学ぶことも老年看護学の特徴であるといえます。
老年看護学実習前に勉強しておきたいポイント
老年期にある人を対象に看護実践を行う上で、まず高齢者の特徴を理解しておくことが大切です。ここでは、高齢者の特徴と、対象者の思いや全体像をとらえる上で大切なコミュニケーションにおいて大切なことを解説します。
高齢者の特徴
老年期における変化として、加齢によって起こる身体面の機能低下や、社会活動の減少といった衰退現象の側面がある一方で、個人の人生を通して向上していく人間の発達や成長といった、精神活動における成熟現象の側面があることを理解することが大切です。
高齢者とのコミュニケーションのコツ
老年期の身体的特徴として、高い周波数の音が聞き取りにくくなるということがあげられます。コミュニケーションにおいては、女性の高い声が聞き取りにくいこともあるため、できるだけゆっくりと低い声で話すようにすることがポイントです。
また、横からや後ろからではなく正面から目線を合わせて声をかけることも大切です。聴力に低下がある場合でも、口の動きを見ることで話していることが伝わりやすくなるため、短く区切りながらはっきりと口を動かして話すことを心がけましょう。
高齢になると短期記憶が抜けやすくなる一方で昔のことや子ども時代の話といった長期記憶は鮮明に覚えていることが多いため、同じ話を繰り返すこともみられます。
看護者は、まずはよき聞き手になり、傾聴する姿勢が大切です。途中で言葉を遮ったり否定したりはせず、相手の気持ちに共感する姿勢で関わることが、円滑なコミュニケーションにつながります。
老年看護学実習で役に立つ資料
老年期の発達課題
- 肉体的な力と健康の衰退に適応すること
- 隠退と収入の減少に適応すること
- 配偶者の死に適応すること
- 自分の年ごろの人々と明るい親密な関係を結ぶこと
- 社会的・市民的義務を引き受けること
- 肉体的な生活を満足に送れるように準備すること
障害高齢者の日常生活自立度判定基準
生活自立 | ランクJ | 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する
|
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準寝たきり | ランクA | 屋内の生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
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寝たきり | ランクB | 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ
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ランクC | 1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する
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引用:厚生労働省 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)0000077382.pdf (mhlw.go.jp)
認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
ランク | 判断基準 | 見られる症状・行動の例 |
---|---|---|
Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。 | |
Ⅱ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。 | |
Ⅱa | 家庭外でも上記Ⅱの状態がみられる。 | たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等 |
Ⅱb | 家庭内でも上記Ⅱの状態がみられる。 | 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等 |
Ⅲ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。 | |
Ⅲa | 日中を中心として上記Ⅲの状態がみられる。 | 着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる。 やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等 |
Ⅲb | 夜間を中心として上記Ⅲの状態がみられる。 | ランクⅢaに同じ |
Ⅳ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 | ランクⅢに同じ |
M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 | せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等 |
引用:厚生労働省 認知症高齢者の日常生活自立度0000077382.pdf (mhlw.go.jp)
老年看護学実習に行く前に持ち物をチェック!
血圧計
老年期にあたる対象者のフィジカルアセスメントを行う上で、血圧コントロールは重要です。身体状況の変化や急変時の対応に備えて、いつでも測定できるようにしておくことが大切です。
SpO2モニター
血圧と同様に、呼吸状態の変動も重要な観察ポイントとなるため、いつでも酸素飽和度を観察できるよう準備しておくことが必要となります。
聴診器
全身状態のアセスメントを行う上で、聴診は大切な情報となります。聴診の手技や方法を予習し、適切なフィジカルアセスメントを行うことが大切です。
時計(ナースウォッチ)
バイタルサイン測定の際、呼吸数や脈拍を計測するのに使用します。また、輸液を使用している場合、点滴の滴下確認の際にも時計を使って、秒数あたりの滴下数から滴下速度を調整します。
患者さまの症状の変化においては、いつから症状が出現したかなどを時刻とともに把握する必要があるため、常に時間を確認できるようにしておくことが必要です。
メモ帳
バイタルサインや観察した内容、調べておく必要があるものをすぐに書き留められるよう、常にメモ帳を携帯しておくことが必要です。個人情報保護の観点から、メモを取る際のルールやメモ帳の使用の可否については、学校や病院の規則を確認しましょう。
意識レベルのスケール
意識が清明でない場合、意識状態を評価する上でスケールを使用します。JCS、GCSなどそれぞれのスケールの判断基準が示されている資料を手元に持っておくことで、実際の患者さまの状態に照らし合わせて評価することができます。
ポケットサイズの参考書
血液検査のデータの基準値や使用している薬の作用など、観察内容やカルテの情報をその場でアセスメントできるようにするために、検査値やスケールが載っているようなものがあると良いです。
カードタイプやポケットマニュアルのようなものもあり、ユニフォームのポケットに入れて持ち運びができるものが便利です。
用意しておきたい項目
- 血液データの検査値
- バイタルサインの基準値
- 輸液管理の観察項目、管理方法
- よく使用される薬の作用一覧(診療科により違いがある)
- 心電図の見かた
- 清潔ケアの手順
- 移動、移送介助などの手順