看護実習で使える!高齢患者さまとのコミュニケーションのコツ【老年看護学実習】
実習では高齢の方を受け持つことが多く、高齢者とのコミュニケーションで悩むことも多いのではないでしょうか。
この記事では高齢の患者さまとのコミュニケーションで大切なポイントを紹介します。ぜひ記事を読み進めて、実習で円滑なコミュニケーションを取るための参考にしてみてください。
目次
高齢者と円滑なコミュニケーションをとるには?
高齢者と円滑なコミュニケーションをとるためには、高齢者の特徴の理解が大切です。その人が今まで生きてきた生活習慣や生活環境、社会的背景などに影響されて個人が形成されています。そのためコミュニケーションにおいても個別性を意識しましょう。
高齢者には難聴や喪失感など、多くの共通する特徴があります。身体的特徴を知ることで声量や目線などを考えることができ、精神的特徴を知ることで、その人に今必要な言葉が何かを考えられるのです。
高齢の患者さまは人生の大先輩です。接遇の面からも丁寧な言葉遣いを心がけましょう。ひとりの人として尊重していることが伝わると信頼関係も築きやすくなります。
高齢者の特徴を理解しよう
高齢者は基礎体力が低下し、複数の疾患を抱えていることが多いです。加齢や身体機能の低下によりできることが限られたり、大切な人との離別を経験したりします。
ここでは高齢者の特徴を以下の3点に分けて解説します。
- 身体的特徴
- 精神的(心理的)特徴
- 社会的特徴
それぞれの特徴に応じたコミュニケーションのポイントも解説するので、実習に役立てましょう。
高齢者の身体的特徴
高齢者の身体的特徴は以下の通りです。
特徴 | 例 |
---|---|
予備力の低下 | 病気にかかりやすくなる |
内部の恒常性維持機能の低下 | 環境機能に適応する能力が低下する
|
複数の病気や症状を持つ | 治癒するが、障害が残ったり慢性化しやすくなったりする |
症状が教科書通りに現れない | 診断基準となる症状や徴候がはっきりしないことが多い |
原疾患と関係ない合併症を起こしやすい | 病気により、安静や臥床が長期にわたると、関節拘縮、褥瘡の発症、深部静脈血栓症、尿路感染などさまざまな合併症を起こしやすくなる |
感覚器機能の低下 | 視力障害、聴力障害などが現れる |
コミュニケーションのポイント
高齢者の身体的特徴に伴うコミュニケーションのポイントは以下の通りです。
低めの声ではっきりと話す
高齢になるにつれて高音が聞き取りにくくなるため意識的に声のトーンを落とし、はっきりとした口調でゆっくりと話します。
目線を合わせて頷きながら話を聴く
会話をするときに目線を合わせることは大切です。相手に表情が伝わりやすくなるとともに、話をしっかり聴いてもらっていると感じてもらえます。
ADLに合わせて会話の時間を決める
高齢者のADLを維持、向上させることも看護師の大切な役割です。患者さまの状況を見極めコミュニケーションを取る際に車いすに乗ってもらう、ベッドをギャッジアップするなど意識してADLを維持させる働きをしましょう。高齢者は疲れやすいため長時間のコミュニケーションにならないよう気をつけ、表情から疲労感を観察することも大切です。
高齢者の精神的(心理的)特徴
高齢者の精神的特徴で重視したいものの1つが「喪失体験」です。配偶者や友人、兄弟との死別による喪失、職業や社会的立場の喪失、加齢による身体的喪失などが、生きがいの喪失や孤独感の増強に繋がります。男性と女性で不安に感じるものが違うことも特徴です。
厚生労働省の生活実態調査によると長生きしたくない理由に男性は経済的不安を挙げ、女性は寝たきりや認知症になり家族に負担をかけることを挙げています。
コミュニケーションのポイント
さまざまな喪失体験をしている高齢者とコミュニケーションをとる時には、相手に寄り添った言動を心がけることが大切です。仕草や表情に気を配り相手が何を伝えたいと思っているのか、どんな思いでいるのかを考えてみましょう。培ってきた価値観やその人自身を尊重した関わりが高齢者の心理面を支えていきます。
高齢者の社会的特徴
高齢者の社会的特徴は以下の通りです。
- 社会の第一線から離れる(役割の喪失)
- 経済力の低下
- 人間関係や役割などの社会的交流の減少
- 社会との交流の機会や生きがいを失いやすい
- 扶養する立場から扶養される立場へ変わる
- 高齢者の2人暮らしまたは独居
コミュニケーションのポイント
高齢者の社会的特徴に対してのコミュニケーションのポイントは、自身の役割を再確認してもらうことにあります。自身もまだ役に立てるという実感は高齢者にとって生きる意欲につながるため、患者さまに得意なことを教えてもらうことは効果的でしょう。高齢者を敬いながら社会的役割を持ってもらえるようなコミュニケーションを意識しましょう。
高齢者がかかりやすい疾患
高齢者がかかりやすい疾患として認知症や脳血管疾患、心疾患や慢性疾患があります。糖尿病や高血圧があると脳血管疾患や心疾患を起こす可能性も高くなります。脳血管疾患の後遺症によって構音障害や失語症が生じる場合もあります。
高齢者のコミュニケーションに関係する以下の3つの疾患や症状について解説します。
- 認知症
- 構音障害
- 失語症
認知症
認知症は脳の病気や障害などさまざまな原因により、認知機能が低下し日常生活全般に支障が出る状態です。日本では高齢化に伴い認知症の人も増加しており、65歳以上の高齢者では2012年度時点で7人に1人が発症しているとされ、年齢が高くなるにつれて発症の可能性も高まります。
若年性認知症を除いた4つの認知症の種類と特徴を下記の表にまとめます。
認知症の種類 | 特徴 |
---|---|
アルツハイマー型認知症 |
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血管性認知症 |
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レビー小体型認知症 |
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前頭側頭型認知症 |
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コミュニケーション技法
認知症の患者さまとのコミュニケーション技法についてバリデーションとユマニチュードを紹介します。
バリデーション
バリデーションとは認知症の方の言動や行動を意味あることと捉え、認めて、受け入れるものです。バリデーションは「高齢者の感情表出を促すこと」「高齢者の人生未解決課題への奮闘を支援すること」を目指しています。実施することで以下の効果が期待できます。
認知症の方への効果 | 家族や支援者への効果 |
---|---|
|
|
バリデーションの基本的態度は以下の通りです。
- 傾聴する
- 共感する
- 誘導しない
- 受容する
- 嘘をつかない、ごまかさない
ユマニチュード
ユマニチュードは「見る」「触れる」「話す」「立つ」の4つの基本的技法を実践し、認知症の方に「あなたは大切です」というメッセージを送る技法です。会話だけに頼るのではなく、言葉ではないメッセージを通じて想いを伝えます。看護師が視線を合わせることで味方であることを伝え、前向きな言葉を与え、優しく触れることで安心感を与え、人である実感を持てるよう立つ時間を作ることがユマニチュードです。
構音障害
構音障害とは適切な発音ができず、コミュニケーションで困ることがある状態のことをいいます。言葉を理解する能力には問題がないため、読み書きは正常にできます。高齢者の構音障害は脳卒中などによる脳の損傷の後遺症による運動性構音障害が多いです。
コミュニケーション技法
構音障害のある患者さまは言語知識に問題ありません。そのため患者さまが思っていることを伝えやすくする工夫が必要です。
構音障害の患者に用いるコミュニケーション機器を以下に取り上げます。
- 紙や磁気ボード、ホワイトボードを用いた筆談
- コミュニケーションボード(50音表・透明文字盤)
- スマートフォン・タブレット・パソコン・意思疎通伝達装置
書くことが難しい場合もあり、コミュニケーションツールは多様です。
どのツールの使用も使い慣れるまでは患者さまも支援者もお互いにもどかしさを感じることが多いです。しかしそこで諦めずに使用を続けて患者さまの言いたいことに耳を傾けましょう。
失語症
失語症は高次脳機能障害のひとつで、言葉の理解が難しくなったり、伝えたいことを言葉にすることが難しくなります。脳の損傷した部位や大きさによって、「理解」「話す」以外にも「読む」「書く」が困難になる場合もあります。
代表的な失語症の種類は以下の4つです。
- 健忘失語
- ブローカー失語(運動性失語)
- ウェルニッケ失語(感覚性失語)
- 全失語
コミュニケーション技法
失語症の患者さまとのコミュニケーションのポイントを以下の表にまとめます。
ポイント | 例 |
---|---|
簡潔に話す |
◎りんごをもらったよ。食べる? ×今日りんごをもらったんだけど…晩御飯の後に〜(中略)食べましょうか? |
ゆっくり待つ |
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クローズド クエスチョン |
「はい」「いいえ」で答えられる質問 |
大事な言葉は書いて確認する |
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ジェスチャー | 表情・身振り・指差しを使う |
お助けグッズ |
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失語症の患者さまと話すときは静かな環境が周囲に気を取られないためいいでしょう。ゆとりをもって、思いを知りたいという気持ちで「じっくり聴き」「ゆっくり話し」「丁寧に確認」することが大切です。
こんなときどうする?コミュニケーションで困る場面別の対処法
高齢者との関わりで「困った!」と感じることの多い4つの場面での対処法について解説します。
同じことを繰り返し話す
高齢者が同じことを繰り返し話すのは忘れてしまうことが原因です。しかしその背景に本人のどのような思いが隠れているのかを考えてみましょう。主な理由として本人が忘れてしまうことに対する不安からくる場合、誰かと関わりたい場合、話を聞いてもらえる嬉しさからくる場合があります。にこやかに話を聴き、話題を変えたり、一旦その場を離れることも有効です。
話のつじつまが合わない
高齢患者さまの話のつじつまが合わない時も指摘は厳禁です。患者さまの話を聴き最後に言った言葉を繰り返すことで「気持ちは分かりましたよ」「言いたいことは伝わっていますよ」というメッセージを伝えるようにしましょう。
拒否や否定が強い
高齢患者さまから拒否があった時には、不安や苦痛がないかを確認しましょう。何に対して不安に思っているのか、妥協できる部分があるのかを一緒に考え、相手の意思を尊重しながら拒否していることが必要な理由も丁寧に伝えることが大切です。
会話が弾まない
気難しかったり、話すのが苦手だったりする高齢患者さまとは会話が弾まないこともあります。特に高齢男性は若い学生と何を話したらいいかわからないと感じている場合も多いです。そのような時には事前に話題の準備をしておくことがおすすめです。好きな話や得意なことの話などからはじめ、いろいろなことを教えてもらう気持ちで接すると本人も心をひらいてくれやすくなります。
高齢者とコミュニケーションをとる際の話題のヒント
高齢者とコミュニケーションをとる時には、これまでの長い人生で数々のことを乗り越えてきていることに敬意をはらいましょう。
高齢者と話が盛り上がり、本人の生活史や生活環境がわかるおすすめの話題を紹介します。
- 生まれ育った場所や子供のころ好きだったこと
- 現役時代の仕事や子育て
- 苦労したエピソード
- 趣味や特技
患者さまのことを知ることは、その人に合った看護に繋がります。コミュニケーションが苦手だと感じている場合はしっかり目線を合わせ、相手の話を丁寧に聴きましょう。看護師は患者さまの1番近くにいる存在です。よき理解者になれるよう、この記事を読み返して実習で高齢者と信頼関係を築けるコミュニケーションをとってみてください。