高齢者のライフヒストリーを引き出すコツは?インタビューの質問項目と具体例
ライフヒストリー・インタビューとは、個人のこれまでの人生を共に振り返り、その人自身の理解を深めるために行われます。老年看護学では、高齢者に対する考え方が看護の質に影響するといわれており、高齢者の理解を深めるのはとても大切です。
今回は高齢者の生活史を聴取するためのライフヒストリー・インタビューの方法、インタビューする上でのコツをご紹介していきます。ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
ライフヒストリー・インタビューをする上でのポイントは?
ライフヒストリーとは、「高齢者の生活史」を指します。これまでの人生でどのような出来事があり、どのような思いで過ごしてきたのかを振り返り、記録するものです。
インタビューを行うのは高齢者であり、高齢者のペースや低めのトーンでゆっくりインタビューしましょう。
気づかないうちに早口になってしまい、高齢者が聞き取れない場合があるため注意が必要です。高齢者が話をしている間は話を遮らないよう、傾聴に努めましょう。
また、長い人生の中でどの部分を振り返れば良いのか、いつの時代の部分が聞きたいのか、具体的に伝えて質問すると、より深い答えが引き出せるはずです。
例えば、過去の写真や思い出の品を用いながら話を進めていくと良いでしょう。高齢者の会話の内容に合わせ、しっかり傾聴する態度で臨むようにしてください。
できる限り自然な会話の中で高齢者の思い出したい記憶を探り、最後は「楽しかった」などのポジティブな気持ちで終えるように進めていきましょう。
ライフヒストリー・インタビューでの質問の選び方は?
生まれた場所や幼少期を過ごした場所、苦労したことや幸せを感じた時などを質問してみるとよいでしょう。生まれた場所には愛着を持っている高齢者が多いです。
高齢者は、古い記憶を鮮明に覚えている場合が多いため、その時にどんな生活をしてどういう思いで過ごしていたのかを聞き出すことで対象者の考え方や生き方を理解するのに役立ちます。
質問項目の具体例
- 出身地は?
- 幼少期の家族構成は?
- 幼少期は何をして遊んでいましたか?
- (既婚者の場合)結婚したのはいつ?
- 今まで一番苦労したのはいつ?
- 一番幸せを感じたのはいつ?
- 若い頃はどんな時代、世の中でしたか?
- 趣味は?
- どんな仕事をしていましたか?
- 住んでいた地域の特徴は?
ライフヒストリーの記録方法は?
インタビューした内容をレポートとしてまとめる際には、高齢者の情報、 自分自身との関係性、現在置かれている状況を前述した上でインタビューの内容を簡潔にまとめていきましょう。
インタビューした内容の中で、高齢者を理解するために印象的だった点を中心にまとめると書きやすいですね。その際、高齢者を捉える上での自分自身の考えの変化なども一緒にレポートすると深みのあるレポートになるでしょう。
書き方の具体例
(事例)○○歳 女性 A氏
・夫、子ども2人の4人家族。現在は夫と3人暮らし。子どもはそれぞれ家庭を持っており県外在住。
・幼少期から現在まで同地域で暮らしており、地域に対する思いが強い。
・○歳で結婚。○歳、○歳の時に子どもを出産。
・戦後に生まれ、戦後の生活について特に詳しく話してくれた。(聞き取った生活内容を記述)
インタビューする前は、うまくコミュニケーションが取れるのか不安だった。しかし、自分が知らない時代の話を聞けて、人生経験が豊富なため、人生の教訓やアドバイスをもらえた。
・昔のように体が動かず、戸惑いや不自由を感じていることが分かった。
・今後、高齢者と接する際には、それぞれの人生背景があるという事実を念頭に、尊敬の意を持って接していく。
ライフヒストリー・インタビューの目的は高齢者理解のため
現在の日本では、高齢者の人口が23%を超え超高齢社会を迎えています。しかし、その中でも核家族化は進み、高齢者とのコミュニケーションが不足している若者が増えています。そのため、高齢者に対して関心を持てなかったり、高齢者に対してマイナスなイメージを抱えたりしてしまう現状があるのです。
看護者の先入観は質の良い看護を提供する上で妨げになってしまう場合があります。質の良い看護、個別性のある看護を提供するために、高齢者のライフヒストリーを理解するのはとても大切です。
ライフヒストリーの活用方法は?
高齢者のライフヒストリーを知るのは、高齢者に対するイメージの変化、高齢者とのコミュニケーション技術の学びにつながるはずです。これまでの人生、生活があったからこそ目の前の高齢者につながっていると理解できれば、より個別性のある看護が提供できるようになります。
看護の現場でも「ライフヒストリーカルテ」が導入されている病院があります。医療者は患者さまの疾病ばかりに目が行きがちですが、患者さまのこれまでの生活史が人格形成に影響を与えています。特に認知症の患者さまは、症状として出現する行動障害がこれまでの生活史を反映している場合が多くあります。
ライフヒストリーを知り、高齢者を知るということは必ず看護の現場でプラスになるはずです。ぜひ、コミュニケーションを楽しみ、人生の先輩である高齢者の方々からたくさんのことを学んでくださいね。
参考文献
[1] 畑野相子,箕原文子 : 高齢者の結晶性能力の受け止め方と看護学生のエイジズムおよび高齢者イメージとの関連,滋賀医科大学看護学ジャーナル,
[2]原祥子、小野光美、沼本教子、井下訓見、河本久美子:介護老人保健施設利用者のライフストーリーをケアスタッフが聞き取ることの意味―ケアスタッフの高齢者及びケアに対する認識の変化に焦点を当ててー老年看護学11(1):21-29.2006