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事例あり!母性看護過程の書き方【アセスメント編】~ウェルネスの視点はなぜ大切?~

看護実習
公開日

母性看護は、健康な人を対象とする場合が多く、対象者の健康の維持・増進、あるいは疾病の予防を目的としている点が大きな特徴です。そのため無理に問題を提起する問題解決パターンではなく、ウェルネスの視点に基づいた看護診断を導入することで、無理なく対象の特徴を捉えたケアの看護過程が書きやすくなります。

今回は正常な妊娠経過をたどり自然分娩となった初産婦の看護過程を、ウェルネス看護診断に基づき展開していきます。ウェルネスの視点の理解を深め、対象者に元来備わっている力を最大限に引き出すことができるケアの実践を行っていきましょう。

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母性看護過程でウェルネスの視点が重要になる理由とは?

ウェルネス(wellness)とは?

ウェルネス(wellness)とはイルネス(illness・病気)の反対語で「健康」の意味を表します。看護におけるウェルネスとは「(心身ともに)健康であること、健康(な状態)、満足のいく状態、健全状態」と定義されています。

さらに、その人が目標に向かっていく行動そのものも意味しています。つまりウェルネスとは、以前と比較してより良く変化しているプロセス自体も含意しているということです。

プロセス自体にも着目するウェルネスの視点

母性看護は、その主体である母親や児に元来備わっている力をいかに引き出せるかが重要となります。

母親が授乳手技をうまく獲得できていない場合

問題点を重視するのではなく、母乳育児へ意欲的に取り組めている姿勢に着目し、それを支援する視点が大切です。対象者の良好なところを、今より良い方向に向かっているという「プロセス自体」にも着目するウェルネスの視点が母性看護過程ではとくに重要となります。

アセスメント前における情報収集のポイント

妊娠期・分娩期の情報収集の重要性

妊娠期・分娩期の経過は、産褥期における母体の心身の回復や、児の経過に大きく影響を与えます。そのため、産褥期の看護過程を展開するうえで妊娠期・分娩期の情報収集はとても重要となります。
妊娠期、分娩期、産褥期ともに、対象者の全体像を捉えるうえで重要になる視点は以下の通りです。

  • 母体の状態
  • 胎児および胎児付属物の状態(産褥期では新生児の状態)
  • 心理・適応過程
  • 生活・社会環境
  • 家族・適応過程
  • 分娩の進行状態(分娩期のみ)

これらの視点に沿った妊娠期・分娩期・産褥期におけるそれぞれの具体的な情報収集の内容を説明します。

妊娠期における情報収集のポイント

母体の状態

妊娠週数に応じて順調であったかを確認します。

  • 妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの合併症の有無
  • 体重増加の程度
  • 貧血、感染症、そのほかリスク因子の有無

胎児および胎児付属物の状態

胎児の発育は順調であったかを確認します。

  • 胎児の発育異常の有無
  • 胎児スクリーニング結果など

心理・適応過程

母体の心理状態は安定していて母親役割に適応し始めていたかを確認します。

  • 妊娠・胎児の受容
  • 妊娠中の行動や言動、動作、表情に異変の有無

生活・社会環境

生活や社会環境は整っていたかを確認します。

  • 子育てに適した生活環境を整えられていたか
  • 社会資源の活用の有無、母親学級の参加の有無
  • 妊娠中の就労状況

家族・適応過程

新しい家族を迎えるための役割調整をして、適応しつつあったかを確認します。

  • 夫婦関係、夫の父親役割への適応
  • 家族の協力体制、受容

分娩期における情報収集のポイント

母体の状態

バイタルサイン、子宮復古、出血量などを確認します。

  • 母体のバイタルサインの変化
  • 出血量
  • 会陰裂傷の有無と程度

胎児および胎児付属物の状態

胎児心拍数やアプガースコア、羊水や胎盤、臍帯の状態を確認します。

  • 分娩中の胎児心拍数の下降、胎児仮死の有無
  • 羊水の性状
  • 胎盤の状態(胎盤の完全な娩出が確認できているか、遺残物の有無)
  • 臍帯の状態(臍帯巻絡(さいたいけんらく)や臍帯結節(さいたいけっせつ)などの異常の有無)

心理・適応過程

母親の精神状態や満足度を確認します。

  • 母親のバースプランに沿って主体的に分娩に取り組め、満足感のある出産となったか

生活・社会環境

分娩時の環境は快適であったかを確認します。

  • 分娩室の環境は快適であり本人、家族が安楽に過ごせていたか

家族・適応過程

家族関係や協力体制はどうであったかを確認します。

  • 分娩時の家族の協力体制、家族時間の確保

分娩の進行状態

分娩時間、分娩方法はどうであったかを確認します。

  • 分娩の所要時間
  • 分娩方法

産褥期における情報収集のポイント 

母体の状態

  • 退行性変化(子宮底の高さ、子宮の硬さ、悪露の色・量・性状、後陣痛、外陰部・肛門部、創部の状態)
  • 進行性変化(乳房の状態、分泌状況、授乳状況)

新生児の状態

  • 呼吸、循環動態
  • 発育は良好か
  • 奇形や分娩時外傷の有無
  • 生理的変化は正常範囲内かなど

心理・適応過程

  • ホルモン変化によって情緒が不安定になっていないか
  • 母子相互作用よって母子関係が促進しているか

家族・適応過程

  • 父子相互作用によって、父子関係が促進しているか
  • 新しい家族と関係を築き、役割に適応しているか

生活・社会環境

  • 体の回復と児に合わせた生活を送れているか
  • 新しい家族を受け入れる環境を整えているか

実習でよく受け持つ事例【正常分娩の妊産婦】

<事例>Aさんの一般情報

基本情報
A氏 31歳 女性
現病歴
初めての妊娠・出産、産褥二日目
生活歴
会社員として勤務中 現在は産前産後休暇中 1歳まで育児休暇を取得予定
家族関係
会社員の夫32歳と二人暮らし。夫婦ともに待ち望んだ妊娠であり、バースプランとして立ち会い分娩を希望。母親学級は夫婦で4回すべて受講している。
本人の両親は同市内在住で車で10分程度、夫の実家は車で30分程度の隣町。
両家ともに初孫であり、児の誕生を待ち望んでいる。
妊娠から入院までの経過、分娩経過
妊娠経過や児の発育に異常はなく、順調な経過を辿っていた。
妊娠38週5日、朝5時30分に陣痛発来し、入院。
分娩経過は順調で、同日午後7時31分、夫立会いのもと正常分娩にて体重2,832gの女児を出産。午後7時45分胎盤娩出。分娩時出血量は300g。
分娩後も母子ともに身体的異常は見られていない。分娩2時間後に初回授乳を実施。
心理状態・適応過程
希望通り夫の立会いのもと出産ができ、分娩後は「夫がいてくれて良かった」と笑顔あり。
初回授乳の際は、「産んで良かった。とってもかわいい、女の子で良かった」との発言あり。
産褥1日目午前中より母児同室開始。妊娠中から母乳育児を希望しており、意欲的に頻回授乳を実施している。
児の扱いはまだ不慣れだが、児と視線を合わせ、話しかけながらおむつ交換などの育児行動をしている。
産褥2日目、乳汁分泌がないことや、授乳時に乳頭の含ませかたや抱き方が上手くできないことに不安や戸惑いの表出あり。「うまく抱っこができなくて、なかなか吸い付いてくれない。すごく時間がかかってしまう。」と話す。

産褥期のアセスメント例と押さえておきたいポイント

上記で挙げた、Aさんの事例でアセスメントの具体例をご紹介します。

S情報 O情報 アセスメント
  • 「夫がいてくれて良かった。」「産んで良かった。」

  • 「うまく抱っこができなくて、なかなか吸い付いてくれない。すごく時間がかかってしまう。」

  • 「とってもかわいい。女の子で良かった。」

  • 初産、妊娠38週5日。 夫立会いによる正常分娩。アプガースコア1分9点、5分10点。出生体重2,832g 、女児。外奇形なし。分娩所要時間14時間15分、分娩時出血量300g、胎児付属物異常所見なし。

  • 妊娠期より母乳育児を希望している。分娩2時間後に初回授乳実施。乳房形態Ⅱa型。産褥1日目より母子同室となり、頻回授乳を開始。児の抱き方はやや不安定さあり、乳頭の含ませ方が浅い。産褥2日目、授乳回数12回/日。乳管開口数1〜2本、乳房緊満なし。

  • 夫婦ともに待ち望んだ妊娠である。妊娠期間中、母親学級は夫婦で4回全て受講している。産褥1日目より母児同室開始。おむつ交換の際は、笑顔で児に話しかけながら行っている

  • バースプラン通り、夫立会いのもとでサポートを受けながらの分娩ができた。分娩経過はスムーズであり、母子ともに健康状態は良好であり、満足感のある出産体験となった。
  • A氏は初産婦であり、児の扱いに不慣れであるが、産褥早期であり、ポジショニングやラッチオンが上手にできないのは当然である。妊娠期より母乳育児を希望しており、意欲的に頻回授乳を行なっている。今後、経験を重ねることで効果的なポジショニングやラッチオンの習得が進み、母乳分泌も促されると期待できる。現在は乳頭の含ませ方が浅いため、今後乳頭発赤などが出現する可能性があり、授乳方法の観察継続は必要である。

  • 夫婦ともに望んだ妊娠であり、今回の妊娠・分娩を肯定的に受け入れられている。妊娠期間中、母親学級を夫婦で全て受講しており、育児に関する知識の学習機会を得るなど、妊娠期から母親、父親役割形成が始まっていたと判断できる。産褥1日目では児の扱いは不慣れであるが、母親役割を懸命に遂行できている。分娩2時間後からの早期接触や、授乳、産褥1日目から母子同室を実施できたことは、A氏の母親役割取得を促したといえる。
  • アセスメントのポイント

    初めて育児を体験する初産婦にとって、産褥早期に新生児の扱いが不慣れであることは当然です。育児行動に対する不安の訴えや戸惑いは、うまくできるようになりたいという心の表れでもあり、思いを表出できていることがとても大切です。ウェルネスの視点では、以前と比較してより良く変化していくプロセス自体にも着目していきます。

    育児行動が不慣れといった問題がある初産婦として関わるのではなく、初産婦として当たり前の状態であると捉えます。看護者が一方的に教育・指導するのではなく本人の主体性を尊重することで本人の持っている力を引き出していきましょう。

    情報収集のチェック項目

    産褥期における情報収集のチェック項目

    退行性
    変化
    ①生殖器の復古は産褥日数に応じて順調か
    • 子宮復古の状態、外陰・会陰部・肛門部の状態
    ②全身の回復状態は産褥日数に応じて順調か
    • バイタルサイン、血液所見、排泄、体重
    • 疼痛、浮腫、疲労感など
    ③退行性変化に影響する因子
    • 出産回数、既往歴、感染症の有無
    • 妊娠週数、出生体重、分娩所要時間、出血量
    • 胎児付属物の異常所見の有無
    ④退行性変化を促すセルフケア行動はとれているか
    • 排泄、清潔、活動量、食事、乳頭刺激
    • 退行性変化に対する本人の理解度、対処力
    進行性
    変化
    ①乳房の状態はどうか
    • 乳房の形態
    • 乳房緊満の有無・程度、乳汁の分泌状態
    • 乳房トラブルの有無
    ②授乳状況はどうか
    • 授乳回数
    • 効果的なポジショニングやラッチオンの手技習得
    • 授乳環境
    ③乳汁分泌や授乳に影響する因子
    • 母親の回復状態
    • 母親が希望する栄養方法、母乳育児への意欲
    • 経産婦の場合は過去の栄養方法、授乳体験
    • 児の健康状態
    ④進行性変化を促すセルフケア行動はとれているか
    • 母乳育児の意義を理解の有無
    • 十分な水分、食事、休息がとれているか
    • 進行性変化に関する本人の理解度と対処法
    心理・
    適応過程
    ①産後の心理的変化はどうか
    • 言動、行動、表情の変化
    ②母親への適応過程はどうか
    • 児の受容の有無
    • 児のニーズに合わせた育児行動の習得
    • 退院後の生活の準備
    ③産後の心理・適応過程に影響する因子はどうか
    • 母親の回復状況、健康状態
    • 児の育児行動技術の習得状況
    • 家族の受け入れ、協力体制
    家族・
    適応過程
    ①父親への適応過程はどうか
    • 父親の年齢、健康状態
    • 両親学級の参加の有無、育児休暇取得予定の有無
    • 退院後の里帰りの有無
    ②家族の適応過程はどうか
    • 家族の母子への受容、協力体制
    ③家族計画が立てられているか
    • 家族計画に関する知識の有無
    • 今後の家族計画
    生活・
    社会環境
    ①出産後の生活の変化の理解はできているか
    • 自宅の育児環境の整備
    ②社会資源・諸制度の活用は可能か
    • 行政、保健サービスに関する知識の有無
    • 産後の復職予定の有無、社会資源の活用や家族のサポートの有無

    新生児期における情報収集のチェック項目

    健康状態 ①出生後2時間までの状態
    • 妊娠経過、分娩経過、アプガースコア、呼吸、循環動態、体温
    • 奇形、分娩外傷の有無
    ②子宮外生活の適応状態
    • バイタルサイン、皮膚色、冷感の有無
    • 排便状況、性状、回数
    • 哺乳状況、哺乳量、嘔吐の有無回数、哺乳意欲
    • 排尿、回数、性状
    • 体重の変化
    • 肉眼的皮膚黄染、経皮的ビリルビン値、血清ビリルビン値
    成長・
    発達
    ①身体の発育状態、成熟状態
    • 身体計測値(身長、体重、頭囲、胸囲)
    • 成熟度(在胎週数、身体所見)
    ②精神・運動発達状態
    • 原始反射、姿勢、筋緊張、四肢の動き、顔貌、泣き声
    • 睡眠状況、活動性、反応
    ③成長や発達に影響する因子はないか
    • 母体因子、遺伝性疾患などの家族歴
    • 妊娠、分娩経過における異常(母体感染症、子宮内感染、胎児機能不全、新生児仮死など)
    • 先天性代謝異常
    栄養・
    保育環境
    ①栄養状態はどうか
    • 哺乳状況(哺乳機能、哺乳を阻害する因子の有無)
    • 授乳状況(初回哺乳の時期、哺乳間隔、回数、時間、量、栄養の種類)
    • 体重増加
    • 脱水症状の有無(皮膚の弾力性、乾燥、排泄状態、大泉門陥没)
    • 活気
    ②適切な保育環境か
    • 保温(寝具・衣類による調整)
    • 清潔
    • 安全環境の確保(感染、熱傷、誤嚥、窒息、転落予防)
    • 母親の表情、言動
    家族・
    適応過程
    ①母子、父子関係はどうか
    • 愛着行動(泣く、吸う、目で追う、声や匂いに反応など)
    • 育児行動(児の欲求を満たせている)
    ②家族関係はどうか
    • 児の受容
    • 役割の変化
    • 家族の協力体制
    生活環境 ①入院中の環境は適切か
    • 母子同室が行われているか
    • 室内の清潔、整頓、安全
    • 室温、湿度、照明、採光
    ②退院後の生活はどうか
    • 住居環境、地域環境

    ウェルネスの視点の理解を深めよう

    対象を身体的、精神的、社会的、感情的な側面を含む「全体」として捉え、全人的にケアやサポートを行うウェルネスの視点は、母性看護はもちろん、あらゆる看護領域において重要な概念です。母性看護実習はとくに、ウェルネスの視点の理解を深められる大切な機会となります。ぜひ、参考にしてみてください。

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