看護実習で使える!褥婦さんとのコミュニケーションのコツ【母性看護学実習】

母性看護学実習は、妊娠、出産、育児という人生の大きな変化に寄り添う看護を学ぶ場です。とくに、産後の褥婦さんとのコミュニケーションは、心身ともに敏感な時期であるため、重要な役割を果たします。この記事では、褥婦さんの特徴を踏まえた円滑なコミュニケーションのコツを解説します。
目次
褥婦さんと信頼関係を築くためのコミュニケーションとは?
産後の褥婦さんは、身体的疲労やホルモンバランスの変化、育児への不安を抱える非常にデリケートな状態にあります。その一方で、短い入院期間の中で育児行動の習得に取り組む必要があります。入院期間は一般的に、初産婦で5日前後、経産婦で4日前後、帝王切開でも7日前後と限られています。その短期間で必要な情報を収集し、適切なケアを提供するためには、信頼関係の構築が欠かせません。
褥婦さんは、母親としての責任や初めての育児行動の習得過程で不安を抱えやすい状況にあります。ひとりの女性として尊重し、個々の背景や感情に配慮したコミュニケーションをとることで、信頼関係を築きやすくなります。
ルービンの母親役割獲得過程を理解しよう
アメリカの母性看護学者であるルービンは、産褥期の母親が役割を獲得する過程を3つの段階に分けて説明しています。母親役割獲得過程の理解は、褥婦さんに寄り添ったコミュニケーションをとるうえでとても重要です。
受容期
出産直後から1〜2日間にあたる期間、母親は自身の身体の回復に集中します。この時期は疲労感が強く、受け身・依存的であり新しい情報を受け入れる余裕がありません。看護師は簡潔で優しい言葉を使い、 褥婦さんのペースに合わせた対応を心がけます。褥婦さん自身の基本的欲求が満たされると、赤ちゃんへの関心が高まっていきます。
保持期
出産後3〜10日頃の期間で、母親としての自覚が芽生え始め、赤ちゃんのお世話に対する関心が高まります。受け身・依存的な状態から自主的・自律的へと変わるため、この時期の育児指導は効果的であると言えます。看護師は、育児の基本的なスキルを丁寧に教え、行動を褒めることが大切です。
解放期
出産後2週間以降の期間で、母親は新しい役割に適応し、赤ちゃんと共に生活するリズムを作っていきます。自分の子に合わせた育児方法を模索し、試行錯誤が続く時期でもあります。看護師は、褥婦さんの価値観や育児スタイルを尊重し、個別性に応じた支援を行うことが求められます。
褥婦さんに寄り添った声かけをするために
褥婦さんの心身状況の理解
褥婦さんとのコミュニケーションを通じて心身状況を適切に理解することは、産後ケアにおいて非常に重要です。
褥婦さんが正常な経過をたどっているかを判断するためには、褥婦さんが理解し答えやすい内容で子宮収縮や悪露の状態について丁寧に尋ねる必要があります。合併症の早期発見のためにも出血や感染症の兆候について褥婦さんの訴えや表情、声のトーンなども注意深く観察し情報を得ていきます。
丁寧な声掛けによる質問や注意深い観察は、褥婦さんの安全を守るだけでなく、 「しっかり看てもらえている」という安心感も与えることができ、信頼関係の構築に繋がります。
コミュニケーション例とそのポイント
【例1】
「お腹や傷の痛みは辛くないですか?悪露の色や量についても気になることがあればいつでも教えてくださいね。」
「体調はどうですか?」と尋ねると褥婦さんは何を答えていいのかわからず困ってしまい、気になることがあっても「・・・大丈夫です。」と返答してしまう可能性があります。
症状や悪露の状態などを具体的に確認することで、異常の早期発見につながります。
また、違和感がある場合はいつでも看護師に知らせるようお伝えすることで安心感を与えられ、信頼関係の構築につながります。
視線を合わせ、穏やかな口調で話し、褥婦さんが率直に話せる雰囲気を作りましょう。
【例2】
「昨晩は赤ちゃんのお世話でお疲れになりませんでしたか?睡眠はとれましたか?」
痛みや合併症だけでなく、睡眠不足や疲労感も褥婦さんの身体回復や精神面に大きく影響します。
症状の有無を聞くだけでなく、赤ちゃんとの生活の状況を具体的に尋ね、共感を示すことでサポートを求めやすくします。
傾聴する姿勢
褥婦さんとコミュニケーションをとるうえで、褥婦さんの抱える不安や悩みの傾聴、共感的な姿勢での関わりはとても重要です。
傾聴する姿勢をとることは、褥婦さんに心理的な安心感を与える効果があります。自分の話をしっかりと聞いてもらえることで褥婦さんは気持ちを吐き出しやすく、孤独感や不安を軽減することができ、精神的な安定を得られます。
このように、傾聴する姿勢を通じてマタニティブルーや産後うつの予防はもちろん、早期発見にもつなげることができます。精神的な異変を早期に察知した場合は、必要に応じて適切な支援につなげていきます。
コミュニケーション例とそのポイント
【例1】
「初めての育児は慣れないことが多くて大変ですよね。不安に感じることや気持ちが落ち込むことはありませんか?小さなことでも構いませんのでいつでも知らせてくださいね。」
褥婦さんが抱える心理的な負担に焦点を当て、安心して話せる雰囲気や環境を作ることが重要です。不安や悩みを言葉にしやすくなり、信頼関係を深めるきっかけになります。
【例2】
「大変だと思いますが、赤ちゃんのお世話をしっかりされていて素晴らしいですね。無理せず、疲れを感じたときは教えてくださいね。」
褥婦さんが感じている育児の負担を理解・傾聴しつつ、その努力や頑張りを認めることで、母親としての自信を持たせることができます。無理をしすぎないようこちらから声かけすることで支援を求めやすい環境を作ることができます。
わかりやすく、丁寧な育児指導
褥婦さんが自信を持って自宅で育児に取り組めるようになるためには、入院期間中に行う看護師のわかりやすく丁寧な育児指導が非常に重要となります。
とくに初産の褥婦さんにとって、新生児の扱いや授乳方法は未知のことが多く、不安や戸惑いを強く感じます。褥婦さんが母親としての自信を喪失しないよう、指導方法はわかりやすく、丁寧に行わなくてはいけません。具体的な方法を示し、実践を通じて自分でできるという成功体験が得られると自信につながり、退院後も安心して育児行動に取り組むことができます。
育児指導においては「できる」「できない」といった行動の達成度ばかりに焦点を当てるのではなく、育児行動を通じて感じる「喜び」や「愛情」に対しても一緒に共感することが、退院後も育児を楽しく自信を持って続けられる需要な要素となります。
コミュニケーション例とそのポイント
【例1】
「授乳のタイミングは、赤ちゃんが口を開けたり、唇を舐めたりしたらサインです。焦らず、ゆっくり授乳をはじめましょう。」
シンプルでわかりやすい言葉を使い、大切なポイントを簡潔に伝えます。赤ちゃんの実際の反応を一緒に観察しながら、褥婦さんが安心して実戦できるよう援助します。
褥婦さんの多くは、授乳に対して多くの不安を抱えています。具体的なサインや方法を説明し、実践を交えて繰り返し指導することが重要です。授乳中は、リラックスできるような言葉がけによる雰囲気作りにつとめましょう。
【例2】
「抱っこをするときは、このように背中と首をしっかり支えると赤ちゃんが安心しますよ。最初は緊張すると思いますが、赤ちゃんがリラックスしているサインを確認しながら一緒にやってみましょう。」
「ママに抱っこされて赤ちゃんは安心していますね。とってもかわいいですね。」
褥婦さんが抱える緊張や不安に寄り添いながら、実際に手を取り、赤ちゃんが安心できる抱き方を具体的に教えることで自信の獲得につながります。赤ちゃんの表情や仕草を一緒に観察しながら進めることで、褥婦さんが赤ちゃんとのつながりを感じられ、育児行動の喜びや幸せも同時に得ることができます。
コミュニケーションを通して得られる貴重な経験
母性看護学実習は褥婦さんや赤ちゃんと直接関わることで、生命の尊さや、そこにたずさわる看護者の重要な役割を深く学べる貴重な機会となります。褥婦さんの不安、そして喜びに寄り添う姿勢を大切に、褥婦さんとコミュニケーションをとってみてください。