地域包括ケア病棟とは?~地域包括ケア病棟の役割と看護師に必要な力~
超高齢社会の現代で、需要が高まっている地域包括ケア病棟ですが、どのような役割を担っているのかご存知でしょうか。
こちらの記事では、地域包括ケア病棟の地域による役割の違いや、看護師が働く上で求められることを解説しています。地域包括ケア病棟に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
地域包括ケア病棟とは
地域包括ケア病棟とは、急性期の治療後、在宅復帰にあたり不安が残る方を対象に、日常生活を送れるようにするリハビリや、ご自宅の環境整備、退院後に入居する施設の手配といった退院調整を行う病棟です。利用者は一般的に高齢者の割合が多いです。
地域包括ケア病棟の役割
地域包括ケア病棟には、主に3つの役割があります。
- 急性期治療を経過した患者さまの受け入れ
- 在宅療養を行っている患者さまの受け入れ
- 在宅・生活復帰支援
すべての地域包括ケア病棟がまったく同じ役割を担っているわけではなく、地域による患者層の違いから、いずれかの役割に特化した病棟も存在します。
以下では、地域包括ケア病棟の役割について、より詳しくご説明していきます。
急性期治療を経過した患者さまのリハビリ
地域包括ケア病棟のリハビリは、急性期治療を経過した患者さまが日常生活を送れるようになることを目的としています。
リハビリを通して、薬の管理やシャワー浴といった日常生活を、退院後にご自身でしっかり送れるか評価を行います。自立した日常生活を送ることが困難だと評価した場合、より多くの時間をリハビリに割けるように調整する必要があります。
在宅で療養を行っている患者さまの受け入れ
地域包括ケア病棟では、在宅療養中に体調を崩した患者さまの受け入れを行っています。体調次第では、急性期での治療を要するため、地域包括ケア病棟に直接入院される患者さまは限られています。
高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らせる社会(地域包括ケアシステム)を構築するには、疾病を抱えていても自宅などの住み慣れた生活の場で療養できるように包括的な在宅医療、介護の提供が不可欠であるため、地域包括ケア病棟はその重要な役割の一端を担っています。
在宅・生活復帰支援
患者さまがご自宅に帰られた後も生活が送れるように、体の状態と環境を整えるための支援を行います。
在宅復帰後の生活支援が必要な場合、ケアマネジャーによる在宅サービスの調整といった役割も担います。ケアマネジャーは、介護を必要とする人の相談に乗り、訪問看護やデイサービスなどのサービスが受けられるようにケアプランの作成や市町村・施設との連絡調整を行います。
在宅復帰とは必ずしもご自宅とは限らず、急性期治療を終えた後、介護施設に入居することもあります。介護施設への入居は介護保険の申請に時間がかかるため、申請が通るまでの間を地域包括ケア病棟で過ごします。
介助者の休養のためのレスパイト入院
レスパイト入院とは、日頃ご自宅で介護されている介助者が、なんらかの事情で介護を一時お休みしたいときに地域包括ケア病棟に短期入院できる制度です。
介助者の方が疾患に罹患し、介助できなくなってしまった場合や、法事の準備といった用事があり、ご利用されるケースがあります。入院期間の上限は定められているため、定められた日数に収まるように利用する必要があります。
老々介護をされている方が多いこともあり、レスパイト入院の利用は増えてきています。
今後高齢者が更に増えてきて、福祉施設のショートステイ利用数に限りが出てくるとレスパイト入院のニーズはより一層増えるでしょう。福祉施設は医療機関ではないため、医療行為が必要な方は特に病院で看る意義が大きいです。
地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟の違い
地域包括ケア病棟も、回復期リハビリテーション病棟も、急性期治療後の患者さまにリハビリを提供して在宅復帰を目指す点は共通しています。では、どのような違いがあるのでしょうか。
地域包括ケア病棟 | 回復期リハビリテーション病棟 | |
---|---|---|
入院日数上限 | 最長60日間 | 最長180日(疾病により異なる) |
対象患者 | 対象となる疾病なし | 対象となる疾病あり |
目的 | 急性期治療後または在宅療養中に悪化した患者さまの在宅復帰 | 急性期治療後の患者さまの在宅復帰 |
リハビリ | 日常生活を送れるようにする | 発症以前の状態を目指す |
地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟では、入院日数などさまざまな違いはありますが、根幹にあるのは病棟の目的の違いです。
回復期リハビリテーション病棟は、重点的・専門的なリハビリの提供で発症以前の状態に戻すことを目的としています。重点的・専門的なリハビリを必要とする患者さまを対象とするため、入院できる疾患が限定されており、入院日数も最大180日の範囲で疾患ごとに定められています。
地域包括ケア病棟は、患者さまが住み慣れた地域で長く安心して暮らすことを目的としています。目的の違いから、回復期リハビリテーション病棟のような疾患の制限はありません。
急性期治療後の症状に不安がありリハビリを受けたい方、在宅療養中に具合が悪くなった方、ご自宅の受け入れ準備や介護保険申請中の方など、幅広い患者さまを受け入れています。入院日数は最大60日で、日数以内ならば再入院することもできます。
地域による地域包括ケア病棟の役割の違い
地域によって患者層が異なるため、都心での地域包括ケア病棟の役割と、地方の地域包括ケア病棟の役割は、また少し違ってきます。
都心での地域包括ケア病棟の役割
都心に位置するJCHO東京高輪病院を一例に挙げると、近隣の大学病院から地域包括ケア病棟に転院されてくる方が多くいらっしゃいます。そのため、地域包括ケア病棟の役割の一つである、「急性期治療を経過した患者さまの受け入れ」が活発です。
急性期病院の入院期間は短いため、治療を継続しながら地域包括ケア病棟に移る患者さまや、在宅療養に移行される患者さまが多いです。
心臓疾患によりリハビリできない方や、手術後、回復期リハビリテーション病棟で長時間リハビリを行うことが難しい患者さまも受け入れています。食事が摂れずに在宅復帰支援が長期間にわたり必要な方が多く、一般病棟のような医療行為が必要な患者さまが約半数を占めます。
在宅復帰を目指す地域包括ケア病棟ですが、手術後にご自宅への復帰が困難な方は施設に入居されます。都心は福祉施設の数が多く、退院後の選択肢が豊富のため、比較的退院調整がしやすいです。
地域性が関わってくるため、同じ東京都の中でもJCHO東京高輪病院とはまた違った役割の地域包括ケア病棟もあるでしょう。
地方での地域包括ケア病棟の役割
大学病院が近隣にない地方の地域包括ケア病棟では、「急性期治療を経過した患者さまの受け入れ」を行うことがないため、医療行為を必要とする患者さまを看ることもほとんどありません。「在宅療養を行っている患者さまの受け入れ」や、「在宅・生活復帰支援」が主な役割となる地域包括ケア病棟が多いのではないでしょうか。
都心と比べると福祉施設の数が少ないことから、退院時はご自宅に復帰していく方の割合が高いでしょう。
入院期間の上限である60日間を超過しないように調整する必要がありますが、福祉施設が少ない分、在宅復帰の調整は難しくなると思われます。
地域包括ケア病棟における看護師の役割と仕事の内容
地域包括ケア病棟における看護師の役割
看護師の役割は、在宅復帰に向けた準備のお手伝いをすることや、日常生活に向けたリハビリの継続をすることです。また、ご家族や他のチームと連携をとる形で退院支援していきます。
地域包括ケア病棟における看護師の仕事内容
地域包括ケア病棟の役割は退院支援や退院調整が主ですが、看護師の基本の仕事内容は他の病棟と同様です。急性期の治療を継続して必要とする患者さまには治療を継続します。
入院期間の上限が迫っていても治療を必要とする状態が続く患者さまに関しては、カンファレンスで退院の可否を判断します。
地域包括ケア病棟の看護師に求められていること
多くの患者さまを看られること
地域包括ケア病棟では症状が比較的落ち着いている患者さまを看るため、看護師ひとりが受け持つ患者さまの数が多く、急性期病棟と比べるとたくさんの患者さまをまんべんなく看ることが求められます。
疾患に対処できる知識や観察力
患者さまの症状が落ち着いている病棟とはいえ、絶対に病気に罹らないわけではありません。
突然腹痛を訴えるなどの予期せぬ事態に直面したとき対応できるように、疾患の知識は他の病棟の看護師と同様に身につけておく必要があります。どのような状態か、何が起きているか把握するための知識と観察力が求められます。
情報を集めるコミュニケーション能力
地域包括ケア病棟で行う退院調整に一番重要なものはご自宅の環境の情報です。
IADLの情報収集も重要なため、ご自宅での生活をイメージするために、自宅に帰ってからの通院方法や、ご自宅のトイレの状況など、患者さまのプライベートな領域まで踏み込む必要があります。
特に経済的な事情は聞き出すのが難しく、いろいろな調整を終えた後,ある日突然判明した情報で再調整が必要になることもあります。大抵の患者さまは口を閉ざしており、短期間で信頼関係を築き情報を得るのは難しいことです。
看護師や看護補助者が寄り添ってケアしているときに、ふとしたきっかけで驚きの情報を聞くこともあり、観察力が重要です。
数ある職種の中で、看護師が一番患者さまのそばにいるため、最もコミュニケーションが取りやすいです。
患者さまに寄り添える力
観察は、患者さまの様子がいつもと違うと分かることが理想です。いつもより食事が摂れていない、元気がない、といった感覚を掴めることです。
そのためには患者さまに寄り添うことが重要で、しっかりとその人のことを知ること、コミュニケーションを取ることが大切です。
地域包括ケア病棟で働いていて大変なところ
辛い気持ちを抱え込むと心が折れてしまう
急性期よりも比較的落ち着いている地域包括ケア病棟ですが、心の健康を損ねてしまうことがあります。
高齢の患者さまが多い特性から、ときには認知症で攻撃性がある患者さまを受け持つこともあります。長期的に患者さまと関わることができる反面、看護が辛い状態に陥ってしまうと、それが長く続くことになります。辛い気持ちを内に抱え込んでしまうと心が折れてしまうため注意が必要です。
患者さま本人の希望に添えずご自宅に帰ることができない方がいる
経済的な理由や、ご家族のやむを得ない事情により、退院調整が思うように進まないときは難しさを感じます。入院中に予期せぬ事態が起きることもあり、在宅復帰の準備を進めていても、急変して退院が叶わなくなることもあります。
地域包括ケア病棟で働くやりがい
元気になった患者さまを目の当たりにしたとき
患者さまが抱えている課題・状況では在宅復帰が難しいとされていた方の退院が実現することや、胃腸を患い食事が摂れなかった方が60日間のリハビリを通して回復し、退院されることがあります。
そんなときは自分たちが実践した看護が間違っていなかったという自信につながり、やりがいを感じます。
在宅復帰が難しいとされていた患者さんが、入院前と同じ生活にもどれるようになったときはうれしいです。
地域包括ケア病棟に向いている人
ゆっくり患者さまに関わっていきたい人
地域包括ケア病棟には、ゆっくりと患者さまに関わっていきたい人が向いています。
急性期と比べると入院期間が長い分余裕があり、患者さまの情報を得るためにじっくりとコミュニケーションをとって、時間をかけて看護できます。
退院まで一貫して看護したい人
急性期の病院では5日~1週間程度で患者さまが病棟を移動されるため、最後まで看られず症状が良くなったか分かりませんが、地域包括ケア病棟の入院期間は60日間あるため、退院するまで一貫して看ることができます。退院するまで患者さんを見届けたい方に向いているといえます。
地域包括ケア病棟の今後
地域性にもよりますが、現在の地域包括ケア病棟は、急性期治療後の医療行為が必要な患者さまを60日間で在宅復帰にもっていくことが難しい状況にあります。
現状をふまえ、「地域包括ケア病棟」に入院する前の段階として、医療行為が必要な患者さまを受け入れる「地域包括医療病棟」が設けられることになりました。
これからの地域包括ケア病棟は、進む高齢化による需要増にあわせて病棟自体が増加すると同時に、より在宅復帰支援に特化していくことになるでしょう。
地域包括ケア病棟に興味を持った看護学生の方へ
地域包括ケア病棟だからといって特別に身構えることはありません。退院調整のやり方が分からなければ先輩看護師が指導して一から教えるため、はじめから高度なことは求められません。看護師として必要な基本的なスキルを学んでいただければ問題ありません。
病棟にはそれぞれ役割があり、地域包括ケア病棟は在宅復帰の役割を強く持ちます。地域包括ケア病棟における看護に少しでも興味をもっていただけたら、ぜひJCHO東京高輪病院のインターンシップに参加して、病棟での看護体験から自分にあった病棟かどうか、理解を深めてみてください。