基礎看護技術の根拠をおさえよう!看護学生が実習で聞かれることは?【回答例あり】
臨床実習を行う中で、実習指導者に「その根拠は?」「エビデンスは?」と聞かれ上手く答えられなかった経験はありませんか。根拠を把握できていない場合、有効的な看護を提供できないばかりか、患者さまに対して納得、安心させる説明ができず困る場合があります。そのため、患者さまに安心して入院生活を送っていただくためには、根拠をもとに看護を提供していく必要があります。
そこで今回は、根拠、エビデンスについてよく聞かれる場面をご紹介していきます。聞かれるポイントを把握しておくことで実習がスムーズに進むよう、ぜひ参考にしてください。
『コミュニケーション』で根拠を聞かれること
「コミュニケーション」は人と人との関わりの中で最も大切な部分です。看護におけるコミュニケーションはどのように、何の目的で行うのか、受け取った情報をどう活かすのかなどの根拠を考えながらコミュニケーションの取り方、内容を考えていきましょう。
また、疾患により発語が難しい患者さま、意思疎通が難しい患者さまとのコミュニケーションも必要になってくるかもしれません。言葉だけではなく表情、顔色、仕草なども観察しながらコミュニケーションをとってみてください。
Q:患者さまとコミュニケーションをとる根拠とポイントは?
A:患者さまの心理的、精神的な苦痛を把握するためにコミュニケーションを行います。入院生活で困っていることや現在の苦痛を把握し、看護計画の立案に活かします。
覚えておきたい知識
看護計画を立案する上で、患者さまの言葉は重要です。何を目的としてコミュニケーションを取るのかを明確にした上で患者さまと関わると実習がスムーズに進むはずです。
Q:失語症のある患者さまとコミュニケーションをとる上で、ポイントとその根拠は?
A:表情や目線、仕草に注目しながらコミュニケーションを行います。また、「はい」「いいえ」で答えられるような質問をすることで意思表示しやすい環境を作ります。
対象患者さまが意思表示しやすい方法を考え、ゆっくりコミュニケーションを取れるようにします。
覚えておきたい知識
「言語によるコミュニケーションは7%であり、後の93%は非言語的コミュニケーションである」とアメリカの心理学者メラビアンは述べています。[1]
言葉での意思疎通が難しくても非言語的にコミュニケーションを取る方法はたくさんあるので患者さまの個別性に合わせて考えてみましょう。
『フィジカルアセスメント』で根拠を聞かれること
看護師が行うフィジカルアセスメントは、患者さまの情報を収集、分析し、必要な看護ケアを明確にするために行います。基本的には問診、視診、触診、打診、聴診を行い、患者さまの状況を把握していきます。一つの症状に対しても、必要な観察項目は多くその関連性に戸惑うこともあるかもしれませんが、基本に忠実に一つずつ考えていくようにしましょう。
Q:腹痛を訴える患者さまのフィジカルアセスメントを行う順番とその根拠は?
A:腹部の観察を行う場合は、打診、聴診によって腸の蠕動運動に変化が生じる場合があるため、問診→視診→聴診→打診→触診の順番で行います。腹痛の出現時間や持続時間、腹部の張り、皮膚の状態、腸蠕動音、叩打痛、反跳痛の有無などを観察します。
覚えておきたい知識
一般的にフィジカルアセスメントを行う場合は、問診→視診→触診→打診→聴診の順で行います。しかし、観察する部位や、患者さまの状況によってその順番は変更されることがありますので頭に入れておきましょう。
Q:喘息により呼吸困難感を訴える患者さまの観察ポイントは?
A:いつから呼吸困難感が出現しているのか、顔や口唇周囲の色、手指、爪の色、表情、努力呼吸の有無、呼吸のリズム、肺の呼吸音、副雑音や狭窄音の有無などを観察します。バイタルサインとしては体温、脈、血圧、呼吸数、SPO2を測定します。
覚えておきたい知識
呼吸困難を訴える患者さまは基本的なバイタルサインがどのように変化するのか把握しておくことが大切です。呼吸が苦しい場合、脈拍、血圧が上昇し酸素化が低くなりSPO2が低下します。またバイタルサインだけでなく喘息の場合の特徴的な呼吸音、チアノーゼの有無、努力呼吸の有無(どんな種類の努力呼吸が出現しているのか)なども視野に入れて観察を行うと具体的な看護ケアが見えてきます。
『食事』で根拠を聞かれること
食事介助が必要な患者さまには、高齢者や麻痺があり自力での食事が難しい患者さまなどがいらっしゃいます。食事は、生活の中での楽しみの一つです。介助が必要な患者さまがどうしたら食事の時間を楽しめるのか、コミュニケーションの中で患者さまの様子を把握しながらケアを進めていく必要があります。
Q:高齢者の食事介助中、誤嚥を防ぐための注意点とは?その根拠は?
A:高齢の患者さまは唾液量が少ないこと、咀嚼、嚥下機能が低下していることから誤嚥を起こしやすいです。そのため、対象患者さまの咀嚼、嚥下機能に応じた食事形態の変更、一回に口腔内に入れる食事量の調整を行う必要があります。また、顎が上を向くと喉頭口が塞ぎにくくなってしまい誤嚥を起こしやすくなります。そのため直立姿勢で食事できるよう、スプーンを運ぶ角度は真っ直ぐにする、介助者は座った状態で介助する、などが挙げられます。
覚えておきたい知識
介助者が座った状態で食事介助することは、誤嚥を防ぐ目的もありますが、同じ目線で会話を楽しみ、表情や食事のペースを確認できるという意味もあります。
Q:片麻痺の患者さまの食事介助で注意するポイントとその根拠は?
A:片麻痺の患者さまは座位保持が難しく麻痺側に倒れてしまうため、タオルやクッションを背中、麻痺側の腕の下に当て、座位が保持できるようにします。介助者の位置は健側です。基本的には健側の口元に食事を運びます。口の中に食べ物が残っていないか確認してから次の食事を運び、しっかり口が閉じてからスプーンや箸を引き抜きます。
覚えておきたい知識
片麻痺の患者さまは、脳の一部分が損傷したことで麻痺を起こしますが、嚥下障害に関わる神経は脳の両側でコントロールしているため、嚥下障害を起こさない患者さまもいらっしゃいます。しかし、舌下神経や顔面神経の損傷により、患側の口が開きにくい、食べ物が残りやすいなどがありますので対象患者さまの状況を十分に把握することが大切です。
『排泄』で根拠を聞かれること
排泄の援助をする場合にはどんな状況の患者さまにも羞恥心に配慮することが大切です。
また、排泄場所が限られた患者さまに対して、どの姿勢や環境が排泄しやすいのかを根拠に基づいて考えていきましょう。
Q:ベッド上安静の患者さまへの排泄ケアのポイントとその根拠は?
A:羞恥心に配慮するため音や臭気に配慮しながらケアを行います。対象患者さまのADLを確認し、腰が持ち上がるかどうかを確認。可能であれば上半身を30℃ほど上げることで横隔膜が下がり、腹圧がかかりやすくなります。また膝を曲げて足を広げることで足裏に力をかけやすく、怒責しやすい体制をとることができます。
覚えておきたい知識
患者さまの体格や体型、ADLの状況により使用物品も変わります。プラスチック製のものか、ゴム製のものを使用するかなど、尿器、便器の選択にも根拠が必要であることを頭に入れておきましょう。
Q:便秘の患者さまに運動療法や腹部マッサージを行う根拠は?
A: 適度な運動を行うことで、腸に刺激を与え、循環を良くすることができます。また、腹部マッサージを行う場合は腸の蠕動運動に沿ってゆっくり行い、マッサージをする手は温めておくことでリラックス効果(副交感神経優位)による腸蠕動の亢進が期待できます。
覚えておきたい知識
運動療法やマッサージは消化管に炎症や閉塞を起こしている場合は禁忌となる場合があるため注意が必要です。
『清潔』で根拠を聞かれること
Q:清拭を行う意味とその根拠は?
A:皮膚は汗などで体内の老廃物を排出しているため、老廃物をそのまま放置することで皮膚の炎症、感染につながることが考えられます。そのため、粘膜や皮膚を清拭で清潔にすることは、老廃物を除去し、爽快感を与えるとともに感染症の予防や循環促進をもたらします。
覚えておきたい知識
清潔ケアは清拭や入浴、シャワー浴、洗髪、足浴などがあり、対象患者さまの状況により適切な方法を、根拠を持って選択することが大切です。
Q:足浴を行う根拠とポイントは?
A:清拭だけでは除去できない汚れの除去、(角質を柔らかくすることで除去しやすくなる)下肢を温めることでの循環促進、リラックス効果、不眠の解消に繋がります。また、足浴というリラックスの場を提供することで患者さまとゆっくり向き合う時間を作ることができます。
覚えておきたい知識
患者さまの様子を観察しながら、「適切な温度」「適切な体位」「適切な時間」を考えながら行うことが大切です。
『活動と休息』で根拠を聞かれること
健康な人と疾患を抱える患者さまでは、疲労度、疲労感に違いがあり、休息の必要性も変わります。実習の序盤では患者さまの活動と休息のペースがうまく掴めないかもしれませんが、基本的なアセスメントを行いながら患者さまのペースを考慮していくことで、個別性のある看護が展開できるはずです。
Q:なぜこの時間に清潔ケアを設定したのか?
A: 食後すぐの入浴は消化不良につながる場合があるため、食後1時間を経過してからの入浴介助を計画しました。入浴により、循環血液が皮膚に集まることで胃腸の循環不良を起こし、消化、吸収に影響を与える可能性があるためです。
覚えておきたい知識
健康な人であっても同様です。食後に眠気が出るのは胃腸に血液が集まることで脳まで血液が回らないためです。しばらく休息をとってから活動するようにしましょう。
Q:なぜ入浴時間は5〜10分なのか?その根拠は?
A:入浴により循環が促進され体温上昇、発汗など、エネルギーの消費量が高いと考えられます。そのため疲労感が強く出る場合があり、入浴時間は5〜10分以内の短めとしました。
覚えておきたい知識
湯船の温度により皮膚から伝わる刺激も変わります。対象患者さまの病態や湯温の好みなども把握しておくと良いでしょう。
『感染症対策』で根拠を聞かれること
感染症は、「感染源」「感染経路」「宿主」の3つが揃うことにより感染が成立します。[2]
病院では、この中の「感染経路」を断ち、感染源を広げないよう務めなければなりません。そのための基本的な考え方である「標準予防策(スタンダードプリコーション)」を理解することが感染症対策の根拠につながります。間違った方法で処置を行うと院内感染を起こしてしまう可能性があるのでしっかりと勉強しておきましょう。
Q:スタンダードプリコーションの基本的な考えとは?
A:「すべての血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜等は感染源となり、感染する危険性があるものとして取り扱う」 という考え方です。そのため、前述したものに触れるときには手袋の着用、飛び散る可能性がある場合には手袋に加えてマスク、エプロン、ゴーグルの着用を行います。
覚えておきたい知識
上記に加え、感染性廃棄物を取り扱う場合も手袋を着用し、注射針を取り扱う場合は針刺事故防止のためリキャップせずに針捨てボックスにそのまま捨てることを徹底しましょう。
Q:1処置1手洗いを実施する根拠は?
A:看護者の手指は、病原体(感染源)を伝播する感染経路の一つです。手袋をしていても、手袋には小さな穴が空いている場合があり、その隙間から病原体が通過する可能性があるといわれています。[3]自分自身の手が感染経路となり患者さまや自分自身に感染させないために、1つの処置が終わったら手指衛生を行う必要があります。
覚えておきたい知識
目で見えないほどの汚れであった場合、アルコール消毒での手指衛生だけでも十分に効果があることがわかっています。[4] しかし、正しい方法で実施しなければ感染源が手指に残ってしまうことがあるため、正しい方法、病原体が残りやすい部位を勉強しておくと良いでしょう。
看護に根拠が大切な理由
根拠に基づいた看護とは、研究によりその看護ケアの有効性が立証されているということです。なんとなく良さそう、という曖昧な情報だけで看護を提供すると型にはまった看護技術となりやすいですが、根拠を理解することで、対象患者さまに合わせた個別性のある看護を提供することができます。
看護学生の皆さんは、最先端の新しい知識を学んだばかりの方たちです。ぜひその知識を活用しながら、目の前の患者さまの根拠に基づいた看護ケアを考えてみてください。
参考文献
[1]メラビアンコミュニケーションと非言語コミュニケーション